感覚のメカニズム

ブッダは「6つの感覚器官とその対象物」について心の中身を観察しなさい、と常に言っていました。

6つの感覚器官とは、目・耳・鼻・舌・身体・心です。これらに光景(色と形)・音・臭い・味・感触・思考接触すると、感覚が生じます。

ヴィパッサナー瞑想では、身体上の感覚をつぶさに追う作業が中心となります。これは、心に何かが浮かぶ時、同時に身体のどこかに感覚が伴っているからです。

感覚とは、そもそも何なのでしょう? この感覚のメカニズムを現代の生理学的に解説します。実際に、自分の身体を通しての体験との気づきのヒントにあればと思います。

感覚とは

感覚は、外部からの刺激を受けることで生じるもので、刺激や変化に反応することです。この時、刺激を受け取る器官を受容器感覚器官)と呼び、動物は様々な感覚器官を持ち、それぞれがある範囲の種類の、ある範囲の強さの刺激だけを受け取ることができます。

例えばヒトの眼は、短波長側が360〜400ナノメートル、長波長側が760〜830nmの電磁波である「可視光線」だけを受け取ることができます。可視光線より波長が短く(紫外線)なっても、長く(赤外線)なっても、ヒトの目は認識できません。

ヒトの感覚

現在知られているヒトの感覚は、特殊感覚と、非特殊感覚である体性感覚と内臓感覚の3つに大別されます。

1. 特殊感覚

五感のうちの触覚以外の感覚です。視覚聴覚嗅覚味覚・平衡覚*があり、受容器がそれぞれ特定部位に限られている(網膜の視細胞・内外中耳・鼻粘膜・味蕾・内耳)ので、特殊感覚といいます。これら4つは、目を閉じる、耳を塞ぐ、鼻をつまむ、口に入れないことで、外部からの刺激をシャットダウンすることが可能です。

それぞれの感覚を担当する感覚神経は、眼=視神経、耳=聴神経、鼻=嗅神経、舌=顔面神経と舌咽神経、内耳=前庭神経で、受容器で得た情報を脳に伝えます。

視覚

視覚とは色の感じ方のことです。視覚に色として感じる外からの刺激は電磁波可視光線)です。

色を感受するためには、光源が必要ですが、光は色そのものではありません。「目の網膜を刺激して、視感覚を起こすことのできる電磁波です。目に入ってきた光に対して、目の網膜が刺激を受け、脳が反応することによって初めて「」という概念が生まれます。

電磁波とは、電場磁場が相互に作用しながら空間を伝播する波(波動)のことです。電磁波は波と粒子の性質を併せ持ち、波長によって様々な波としての性質を示す一方で、素粒子として個数を数えることができます。

光も電磁波の一種で、視覚から色として認識されるのは、電磁波の中の可視光線です。

視覚の仕組み

①外部からの光が目(視覚受容器)に接触すると、涙液層・角膜・房水・虹彩の間(瞳孔)・水晶体・硝子体を通って、光受容体(網膜)に光子(光の粒子)が衝突します。

網膜に光エネルギーが衝突すると、網膜の周辺部に分布している視細胞「桿体(かんたい・光の検出能力に優れる)」が光に応答して、光受容タンパク質(桿体型視物質:ロドプシン)を出します。これによって細胞膜の膜電位が変わることで(光情報伝達機構・光シグナル変換機構)細胞が興奮して活動電位(神経インパルス・電気信号)が発生します。

同時に、網膜の中心部に分布する視細胞「錐体(すいたい)」では、3種類のタンパク質ヨドプシンが、赤R・緑G・青Bの光を仕分けし(光の3原色RGB)、色と形態を電気信号に変換します。

③このようにして生じた電気信号は、網膜内の双極細胞(1次ニューロン)・神経節細胞(2次ニューロン)を伝達して集まり、眼球の外に出て視神経を形成します。視神経から脳の視床に伝達され、最終的には大脳皮質の視覚野に達し、そこで色と形が合体した像となって再構成されます。

つまり、光エネルギーが網膜の視細胞(集積回路)で電気エネルギー(電気信号)に転換されて、視神経を形成して、情報処理装置(脳)に伝達されて、極めて複雑なデジタル処理が行われます。

この行程は、テレビの仕組みと同じです。

テレビは、電磁波である電波を利用して「静止、または動く事物の瞬間的影像」を電波で送り、遠隔地で電波を受信して再現する装置です。明暗を電気の強弱に変えて遠方に伝える白黒テレビに始まりました。現在はテレビ放送局が、映像を走査線という光の線としてRGB数値に分解し、CCD(画像を電気信号に変換して取り出す半導体素子)で色や明度の情報を電気信号に変換し、一列の電気信号に置き換えられます。その際に同期信号(画像の位置情報)が順次割り当てられます。音声も、音の高低などにより電気信号に変換されます。

このままの電気信号ではとても弱いので、圧縮して変調処理で高周波の搬送波にのせて発信されます。映像信号は振幅変調処理で、色の情報(色差信号)、明るさの情報(照度信号)、表示位置情報(同期信号)となり、音声信号は周波数変調処理で、音声電波の大きさに応じて周波数が変わります。その後、高所(テレビ塔や東京タワーなど)に設置された送信アンテナから電波として空中に発射されます。

電波は波です。高周波電流によって磁界が生じ、磁界によって電磁誘導が起きて電界が生じます。これを波のように繰り返しながら空間を伝わっていくのが電波です。この空中の電波をアンテナの金属棒が受信します。アンテナの周りには様々な電波が飛び交っていますが、特定の周波数に共振して、大きな電流を誘起できるものがアンテナです。

アンテナの金属棒には複数のチャンネルの電波によって、電流が発生しています。この中から特定の周波数をチューナーで選び出し(選局)、デジタル信号が取り出され復調され、最終的に音声信号と走査線に再生されます。

テレビに映るタレントは、テレビの中にいるわけではありません。タレントは別の時空間にいて、その姿形と声が、色と音に変換されて、電波によって空間を伝わって、テレビで再生されたものです。

聴覚

聴覚に音として感じる外からの刺激は音波です。

音波は、音の元となる音源が起こした空気などの振動で、振動を伝える空間が必要で、空気分子がない真空状態では音は聞こえません。音源(楽器や声)が振動を起こすと、周囲の空気分子が振動を受け取ります。これにより、空気分子が伝言ゲームのように次々と振動を伝え合い、音波が形成されます。音は物理的には空間を伝播する微小な圧の変化(粗密波)です。

人が感受できる音波の領域は、20〜20,000Hz(可聴音)といわれ、20,000Hz以上の聞き取れない音を超音波と呼びます。また、地鳴りなど低すぎる音も聞き取れない場合があり、この音を超低周波音と呼びます。

①外部からの音は、空気などの振動として耳に届き、外耳道を通って入り、この圧の変化に応じて鼓膜が振動します。鼓膜には耳小骨が付着しているので、鼓膜の振動は耳小骨の振動となり、内耳へ伝えられます。振動が耳小骨を伝わるあいだに音の圧変化が増強され(中耳の音圧増強作用)、振動が内耳に達すると、内耳の奥にある蝸牛(かぎゅう)の中のリンパ液、さらには有毛細胞が振動します。

②この振動が刺激となり有毛細胞から神経伝達物質が放出され、付着している聴神経の終末部を興奮させて活動電位が発生します。この時、蝸牛は音の波を周波数ごとに仕分けして、電気信号に変換します。

③このようにして生じた電気信号が、音の情報として詳細に分析されながら、聴神経から脳の視床を経て聴覚野へと伝達されます。

つまり、空気の振動が内外中耳(集積回路)電気エネルギー(電気信号)に転換されて、聴神経を形成し、情報処理装置(脳)に伝達されて、極めて複雑なデジタル処理が行われます。

嗅覚

嗅覚に匂いとして感じる外からの刺激は揮発性物質の分子です。

①ニオイの分子が鼻腔内に入ると、その天井部の嗅粘膜にある粘液に溶け込みます。

鼻の内側を覆う粘膜(嗅上皮)上の小さな領域には、嗅覚受容器と呼ばれる特殊な神経細胞があります。それらの受容器には、匂いを感知する毛状の小突起(線毛)が複数生えています。空気中を漂って鼻腔に入った分子がこの線毛を刺激すると、そこにある嗅細胞が興奮し、近くにある神経線維に活動電位(神経インパルス・電気信号)が発生します。

②この神経線維は、鼻腔の天井部分を形成する骨(篩板・しばん)にある多数の小孔を通り、その上方にある神経細胞の膨らみ(嗅球)につながっています。発生した電気信号は、嗅球を通って嗅神経を形成し、脳へと伝わります。

脳はこの電気信号を特定の匂いとして解釈します。さらに、匂いの記憶が保存されている脳の領域(側頭葉の中央領域にある嗅覚と味覚の処理中枢)も刺激され、それまでに経験した様々な匂いと比較して特定します。

味覚

味覚に味として感じる外からの刺激は飲食物質です。

口に入れた飲食物は、口腔内の舌、咽頭部、軟口蓋にある味蕾で受容します。

舌の表面の大部分は、何千個もの小さな味蕾に覆われています。1つの味蕾には線毛を備えた数種類の味覚受容器が含まれています。それぞれの種類の味覚受容器が5つの基本の味(甘味・塩味・酸味・苦味・旨味)を感知し、飲食物の匂い・味・食感・温度に関する感覚情報が脳で処理され、それぞれの風味となります。

これらの味は舌のどの部分でも感知できますが、特定の部分がそれぞれの味に対してより敏感になっています。甘味は舌の先で最も感じやすく、塩味は舌の前方の横側で最も敏感に感じ取ります。酸味は舌の横側で最もよく感じられ、苦味は舌の後ろ側3分の1でよく感じられます。

①口に入れた食べものによって、味蕾の線毛が刺激され、近くにある神経線維に活動電位(神経インパルス・電気信号)が生じます。

②発生した電気信号は、味覚をつかさどる顔面神経と舌咽神経から脳に伝達されます。

③脳は異なる種類の味覚受容器から来た電気信号を組み合わせて解釈し、特定の味として認識します。

※平衡覚

平衡覚に平衡として感じる外からの刺激は重力です。

身体のバランスを保つために必要な感覚で、人が運動している時や重力に対して傾いた状態にある時に、これを察知する働きです。平衡覚は内耳の前庭で受容される前庭感覚と考えられているので、一般的には耳が受け持つ特殊感覚です。しかし、平衡を保つには深部感覚や皮膚感覚が重要に作用するので、瞑想で観察する感覚としては、触覚である体性感覚として捉えた方がわかりやすいかもしれません。

2. 体性感覚(触覚)

皮膚感覚(表在感覚)と深部感覚があり、受容器(皮膚・筋紡錘)が身体全体に分布しています。感知した感覚刺激は、体性感覚の受容器の興奮が求心性神経により脊髄を通って小脳と視床に伝えられ、最終的には大脳に伝わります。外部からの刺激を常に捉え続け、止めることはできません。

皮膚感覚(表在感覚)

体表面の皮膚や粘膜にある受容器に、刺激が加わることによって起こる感覚。触覚・圧覚・痛覚・温度覚・振動覚などがあり、身体部位によって分布密度が異なります。これらの感覚を受容するのが、それぞれ、触点、圧点、痛点、冷点、温点です。

触覚・圧覚:皮膚表面に加わった弱い機械刺激によって起こる感覚。皮膚に触れた時に生じる感覚「触覚」を受容する触点が最も多く分布しているのは口唇で、反対に最も少ないのは臀部です。圧覚は、皮膚に伝わる圧力の変化を感じ取る感覚で、手のひらに乗せた物の重さを感じることができます。触・圧覚の受容野は、重複している場合が多いです。

温度覚:冷たい物や空気に触れた時に冷たいと感じる感覚、温覚は熱いと感じる感覚です。冷覚や温覚が最もよく働くのは、16℃〜40℃前後の温度帯で、これよりも温度が低くなったり高くなったりすると、痛覚のほうが反応して痛いと感じる。

振動覚:数十Hzから数百Hzの繰り返し刺激によって生じる感覚。

痛みと痒み:痛みは、実質的または潜在的な組織損傷を伴う不快な感覚・情動体験です。侵害受容性疼痛は、侵害受容器で侵害刺激が電気信号に変換されたことによって生じる痛みです。神経障害性疼痛は、侵害受容器は関与せずに神経が障害されることによって 生じる痛みです。

深部感覚

筋肉、腱、筋膜、関節、靭帯などにある固有 受容器に刺激が加わることによって起こる感覚。運動感覚や位置感覚、振動感覚などがあり、筋紡錘の伸縮情報によって身体部位の位置情報を得ています。骨格筋や関節の感覚はほとんど意識に上ることはありませんが、 姿勢の維持などに関与しています。

位置感覚:自分の四肢や身体の各部位の相対的位置関係を知る感覚。 目隠しをした状態でも手足の位置を認識することができます。

運動感覚:随意運動による四肢関節角度の変化の方向、速度などを知る感覚。

力・重さの感覚:姿勢の維持、重量感覚。収縮を必要としない筋活動により生じます。

3. 内臓感覚

内臓に分布した神経で、内臓の状態(動き、炎症の有無など)を感知します。内蔵感覚は体性感覚ではありません。内臓は皮膚よりも神経支配が少ないため、どこが刺激されているかという感覚はあまりなく、内臓感覚の多くは意識にのぼることがありません。臓器感覚と内臓痛覚があり、受容器が内臓に分布しています(化学受容器・内臓)。

臓器感覚

空腹・満腹感、のどの渇き、息苦しさ、吐き気、尿意など、臓器が物理的・化学的に刺激されることによって生じる感覚です。感覚神経によって伝わります。

内臓痛覚

内臓が痙攣(けいれん)したり、炎症を起こしたり、拡張したりすることで生じる痛みです。自律神経によって伝わります。

無意識の感覚と運動「反射」

人間の身体動作は、意識にのぼらないさまざまな脳の仕組みによって支えられています。その1つが「反射」と呼ばれる感覚と運動のプロセスで、視覚などの感覚や体性感覚などによる外部からの刺激に対して、意識しないで動作を行います。

反射による運動制御は、随意運動(意識して行われる動作)よりも高速な動作を引き起こします。「歩く」「立ち上がる」「物に手を伸ばす」といった、日常生活の中で何気なく行っている動作も、反射による姿勢の制御に支えられて実現されています。

人が眠っている間は意識がなくなりますが、潜在意識は常に起きて活動しています。

休むことなく呼吸し続け、心臓を動かし、細胞を分裂しています。絶えず身体に起こる感覚に対して、快・不快・どちらでもないと区別し、それに対応する反応を無意識に続けています。

もし暑ければ、「暑い」という感覚が身体に生じ、「暑くて不快だ」と布団をはぐ反応をしたり、汗をたくさんかいて体温を下げようとします。逆に寒ければ、「寒い」という感覚が生じ、「寒くて不快だ」と布団に潜り込む反応をします。蚊に刺されれば、「痒い」という感覚が身体に生じ、「痒くて不快だ」と刺された部分を手でかき始めます。

これらは全て無意識の反応です。このように身体の感覚は、休むことなく24時間体制で感覚を感じ、それに反応し続けることで、人体を快適な状態にしようとします。

ヒトの感覚のメカニズム

感覚の発生と伝達の仕組みには、共通する基本的なパターンがあり、すべては電気と波動によるデジタル処理のようです。

①外部からの物理的 ・化学的入力に対して、感覚受容器(集積回路が刺激を受けると、細胞の膜は刺激に応じて活動電位を発生します。

これは細胞内外のイオン透過性の変化によるものです。細胞膜が興奮していない時、膜の内側はマイナスの電解質、外側はプラスの電解質が存在し、静止電位の状態ですが、細胞膜が刺激を受けると、イオン濃度に変化が起き、活動電位を発生します。これが出力となります。

②発生した活動電位(神経インパルス)は、電気信号(電流)という形で神経線維(神経)を流れていきます。しかし、電気信号はシナプス間隙を超えることができず、そのままでは、次の細胞へと情報を伝えることができません。

③電気信号がシナプスに達すると、その情報は電気信号から化学物質神経伝達物質)に置き換えられ、神経伝達物質を介して神経細胞どうしの情報交換が行われます。アセチルコリンノルアドレナリンは、この神経伝達物質の一種です。普段は、神経細胞末端のシナプス小胞と呼ばれる袋の中に入っていて、神経線維の中を伝わった電流がシナプス小胞に届くと、その刺激で袋から放出されます。

電気信号→神経伝達物質→電気信号という形で、必要な情報が必要な細胞へと流れていく仕組みです。神経線維という電線のある場所では、電気信号という高速の伝達手段を使って情報を伝え、電線のない場所では、化学物質というアナログに翻訳して情報を受け渡しているのです。

④この電気信号は、ニューロン(電気信号を伝導するように特殊化した細胞)を伝達し、集まって感覚神経を形成し、集積回路(受容器)で得た情報を脳という情報処理装置に伝達し、極めて複雑なデジタル処理を行います。

以上が、ヒトの感覚のメカニズムです。

感覚を感じるのは脳

さて、刺激や変化を感知するのは身体中に分布する受容器ですが、感じるのは脳(高度に発達した神経中枢)にある感覚中枢です。受容器から脳までの神経伝達の経路を感覚伝導路といい、3つの求心性ニューロン(神経細胞)から構成され、嗅覚以外は視床(間脳の中心部分)を経由します。

この時に感じているのは、シナプス間に放出された生化学物質である神経伝達物質の流れです。

神経伝達物質は、少なくとも100あり、それぞれ異なる機能を持ちます。中でもセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリンの4つは重要な神経伝達物質で、食べた物から作られます。

神経伝達物質ドーパミンは期待物質

ドーパミンは「期待物質」です。期待とは「もっと〜して欲しい」「きっと〜してくれるはず」と「予測して望みをかけて待つこと」です。つまり欲望の衝動です。

食べ物でも人間でも、5つの感覚器官が刺激を受け、「」を感知すると、神経伝達物質ドーパミンが放出されて脳内に溢れ、欲望の衝動が起こります。その時の分泌量は人それぞれですが、分泌量が多ければ衝動も大きくなり、少なければ衝動は抑えられます。

人の本能は「自分の身体をより理想的な状態に近づける」ことです。脳は適切な選択をするため、If(もし〜したら:予測)Then(こうなる:報酬)のシミュレーションを行います。予測に対して報酬が多いのは「価値がある」ことであり、逆に少なければ「価値がない」ことと判断します。報酬が多いだろうと判断されたものに対しては、ドーパミンが大量に放出され、欲望の衝動が大きくなります。この判断はもちろん絶対的なものではなく人それぞれで違う相対的なものなので、同じ体験をしても全く違った反応になるのは、このためです。

また、学習によって、その予測と報酬のインパクトが変化します。初めて経験した時には驚くような出来事も、2回、3回と経験するうちに、予測と報酬の差が縮まり、衝動が弱まります。どんな喜びも幸せも、徐々に色あせてしまうのはこのためです。

欲望が満たされて満足してしまったら、生存に有利となるための「利己的な生命体」を維持できないからです。ヒトはドーパミンによって、ひたすら新しい欲望を追い求める(渇望する)ようにできているのです。

ドーパミンが放出されると交感神経が触発されて活性化し、気持ちが高まり、テンションが上がり、強い高揚感を感じます。これは熱狂、夢、情熱のエネルギーです。

 しかし望むものが手に入ると同時にドーパミンの放出も止まります。すぐに物足りなくなり、さらなる渇望の対象を求めます。好きな人との恋愛がうまくいっても、もっと愛情を求めたり、あるいは不倫に走るのはこのためです。

世の中のさまざまな娯楽は、この報酬系を刺激する仕組みを利用して依存するように作られています。古くはパチンコに始まり、オンラインゲーム、Facebookの「いいね」などが、ドーパミンやエンドルフィンが脳内に放出され、依存するように設計されています。

ヒトが求めているのは、望むものそれ自体ではなく、望むものを追いかける自身の心のエネルギーなのです。

ニューロン

ニューロンは、活動電位( 神経インパルス)を伝導するように特殊化した細胞です。

感覚ニューロン

視覚・聴覚・嗅覚・味覚・機械感覚といった感覚器からの情報を中枢神経に伝える。

介在ニューロン

感覚ニューロンや、他の介在ニューロンのシグナルが、脳や脊髄に達することによって刺激されるニューロン。

運動ニューロン

中枢神経系からのインパルスを、筋細胞や腺細胞に伝達するニューロン。

感覚から感情、記憶へ

さて、私たちが感覚として感じているのは、シナプス間に放出された化学物質である神経伝達物質の流れだということがわかりました。

では、この感覚の体験が、脳内でどのように蓄積し、人間の苦しみへと変化していくのでしょう。感情および記憶想起についてのメカニズムについても分析しました。

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