5つのインドリヤ

Pañc’ indriya(パンチンドリヤ)5つの+能力(インドリヤ)。悟り・解脱を得る助けとなる5つの能力で、仏教用語では「五根」と呼びます。

Saddhā(信念)、viriya(努力)、sati(気づき)、samādhi(精神統一)、pañña(智慧)という5つの善なる能力(indriya)です。瞑想修行の妨げとなる5つの障害とは対照的に、修行の助けとなる5つの能力であり、「pañca balāni(5つの力)」と同義語です。

1. saddhā(サッダー)確信

サッダー(確信)は、自分の自由で正しい判断によって、何かを信じて疑う余地がないことです。信じる対象は自分自身で、自分を信じて「きっとうまくいく」と確信し、自分を疑わないことです。

ブッダの教えを信頼するためには、ブッダの教えを実践して、自分で確かめて納得することが必要です。サッダーは自分で実践して、納得して得た確信なのです。何も実践しないでただ信じるだけでは、サッダーにはなりません。

サッダーは、心の汚れ(欲や怒りなど)を鎮めて、心を浄化します。これは人を明るく活発に行動させる基本的な心の状態です。世の中には明るく活発に行動しているように見える人がたくさんいますが、ほとんどの人は自分の欲や怒りのエネルギーで行動しています。

行動の動機が欲や怒りであれば、その行動は悪い行為になります。サッダーによる行動かどうかは、自分も周りも明るく幸福になる行為をしているかどうかで判断することができます。

2. sati(サティ)気づき

今の自分の身体や心の状態や、自分が置かれている状況について、常に気づいているということです。「マインドフルネス」とは、このサティのことです。

私たちは、目・耳・鼻・舌・身・心という6つの感覚器官から得られる情報に、振り回されて生きています。しかし、あまりに慣れてしまって、振り回されていることに気づいていません。常に外からの情報に対して、好きか嫌いかで判断し、執着したり嫌ったりして、欲や怒りで心を汚しています。気づきはその束縛を解き、心を自由にします。

例えば、誰かから不愉快なことを言われたら、ムッとした瞬間に怒りが生じて、心は汚れていきます。この時、気づきをもって「不愉快だと感じて、不機嫌になった」と、その心の中の現象を第三者のように観察すると、怒りが生じません。認識(sañña)が智慧(pañña)に変わり、智慧が生じてくるのです。

心になにか思考が浮かぶ時、心は刺激されて渇望や嫌悪が起こります。

普通は心に浮かんだ出来事に再び怒るか、喜ぶかして反応することで、妄想の世界でエネルギーを増幅させます。このエネルギーは、怒りまたは欲に基づいているので、心を汚すことになります。この時に、渇望や嫌悪の対象や思考に意識を向けて反応するのではなく、自分の心に渇望や嫌悪が起こっていること、あるいは渇望や嫌悪が起こっていないこと、に意識を向けて、感情を加えずに起きた事実だけを観察するように訓練するのです。

ここで心に浮かぶ思考に反応せず、「不愉快だと感じている」「不機嫌になっている」という心の動きを、冷静に観察して受け止めるのです。こうすることで、ネガティブに傾く心を、健全に替えることができます。

また、気づきはネガティブな行動だけでなく、ポジティブな行動にも効果があります。例えば、人を助けるような善行為でも、お礼を期待したりして、どこかに自我が残るものです。気づきを持って人を助けると、「私が」という自我なしに人を助けることができるので、純粋に清らかな善行為となります。

気づき」は特別なことをするのではなく、普通の生活をしながら「客観的に気づき続ける」ことです。それを積み重ねていくと、様々な対象に心が振り回せれず、自分の心がどんどん自由になっていきます。気づきから智慧が生じて、この智慧が涅槃に至る道に導いてくれる大切な働きをするのです。

3. viriya(ヴィリヤ)努力

健全な活動に喜んで取り組む姿勢であり、忍耐力や粘り強さを備えて頑張ることです。仏教では「精進」と訳されます。継続して真摯に一途に取り組み、それを究めようとする様子、一所懸命に邁進する態度です。

私たちは、本当に自分がやらなければならないと思っていることがあっても、日々の忙しさや次々と生じる欲の中で後回しにしたりしがちです。これが「pamāda:怠け(放逸)・わがまま」です。

4. samādhi(サマーディ)精神統一

心が1つの対象に完全に集中した状態です。

5. pañña(パンニャ)智慧

現象の本質を理解することで、anicca(アニッチャ・無常)、dukkha(ドゥッカ・苦しみ)、anattā(アナッター・無我)を理解する能力のことです。聞いた知識、頭で考えた理解では智慧にはなりません。自分の身体で実体験する(ヴィパッサナー瞑想を通した洞察)ことで、sañña(認識)が pañña(智慧)に変わります。

以上、5つの能力が、私たちの修行を助ける力となります。