サマタ瞑想とは
サマタ瞑想(samatha-bhāvanā)とは、心を1つに集中し続けて精神統一する瞑想法のことで、集中力を養うための瞑想法です。アーナーパーナ瞑想はその1つです。
サマタ瞑想を極めると、通常はあれこれ飛び回って情報を処理している脳の機能を、1つのものに徹底的に集中し続けることで、感情が引き起こす五欲の機能が一時的に休止し、samādhi(サマーディ)という精神統一状態が現れます。
感覚的な印象に対する自動的な反応から心を引き離し、周囲への意識が薄れた一点集中の状態です。これが、 jhāna(ジャーナ)=禅定(ぜんじょう)と呼ばれる精神状態です。これを「解脱」と勘違いすることもありますが、ジャーナは落ち着きを極めた単なる精神状態で、解脱ではありません。
サマタ瞑想の種類
サマタ瞑想には、たくさんの種類の瞑想対象があります。蝋燭の炎やマントラ、音楽や踊りなどを対象にするやり方もありますが、集中する対象を正しく選ばなければ、制御不能になる危険な側面もあります。
例えば、「オーム」や「アイーン」といった、ある種のマントラ(言葉)を繰り返し唱えると、誰でも簡単に集中できます。すべての言葉には、それぞれ独特の振動があり、同じ言葉を唱え続けると、身体全体がその振動に包まれます。これは発声している人自身が作り出す人工的な振動膜です。
これは表面的には効果があり、悪い振動が身体に入り込まないように、防ぐシールドの役目をするそうです。しかし同時に、身体の中の悪いものが外に出ていくのも防いでしまいます。そして何より、身体に自然に現れる微細な振動に、気づくチャンスが失われてしまいます。
正しいサマタ瞑想は、依存性がない、欲・怒り・無知の感情が消える、心が穏やかで自由になる、ことが必須条件です。
サマタ瞑想の効果
サマタ瞑想により、正しく精神統一ができるようになれば、悟りに至るための唯一の瞑想法であるヴィパッサナー瞑想が容易になるので、結果として悟りの助けになります。
ヴィパッサナー瞑想を習得してから、アーナーパーナ瞑想を始めることを進める声もありますが、アーナーパーナ瞑想をしっかりやって、集中力を鍛えてからヴィパッサナー瞑想をした方が、効率がいいと私は実感しています。ヴィパッサナー瞑想で感覚を順番に追う際に、集中力があるとブレずに簡単に追尾できるからです。
アーナーパーナ瞑想でもヴィパッサナー瞑想でも、基本はただ観察するだけなのですが、瞑想中、心に次から次へと湧いてくる邪念・雑念・おバカな妄想、心の中の暴れ馬をしずめる作業も必要です。ハッと気づいて雑念から戻る際に、集中力が鍛えられていれば、元の位置を正確に覚えているので、すぐに戻ることができます。
人間は一度に1つのことにしか集中できない
人は、マルチタスクで複数のことを同時にこなしているように思っても、実際には2つの作業の間を行ったり来たりしているだけで、集中の対象をパッパと切り変えているだけです。3つのことを同時に考えることもないはずです。常に2つが連鎖して交互に行き来して、3つ、4つとこなしていくだけです。これは瞑想でよく観察すれば、事実だと自分で確認できます。
この集中力を1点に集中し続けるように鍛えることは、日常生活においてもとても有益な能力です。強い集中力があれば、社会で成功することも不可能ではありません。
アーナーパーナ瞑想
ブッダ推奨のサマタ瞑想は、アーナーパーナ瞑想です。「呼吸に気づく(ānāpāna-sati)」瞑想法で、どんな目的で実践しても、悪い結果にはならない安全な瞑想法といわれています。
なぜ、呼吸を観察対象にするのか?
呼吸は思考を必要とせず、無意識と意識の両方で直接体験できるものだからです。
人間は普段は無意識に自然に呼吸していますが、意識して呼吸をコントロールすることもできます。カッカと怒ると呼吸がはやくなりますし、深呼吸すると心が落ち着きます。呼吸は無意識のレベルから意識レベルまで、精神状態と密接に関係しています。
また、呼吸はすべての生物に共通する現象です。常に生き生きと変化するプロセスであり、吸う、吐く、吸う、吐くという明確なサイクルで動いています。肺から出入りする空気だけでなく、呼吸のたびに身体全体に流れるエネルギーの感覚も扱うことになります。つまり、生命そのものの縮図なのです。
言葉や形など、想像上のものを対象にして意識を集中しても、それはさらに想像を膨らませて幻想を大きくするだけで、事実を観察する助けにはなりません。呼吸のように明らかな真実を対象にすれば、より繊細な真実を探る集中力を鍛えることができるのです。
アーナーパーナ瞑想では、呼吸をはやくしたり、止めたり、数えたり、右からとか、左からとか、コントロールすることは一切しません。ただありのままの自然な呼吸を観察するだけです。ただし、徹底的にです。
アーナーパーナ瞑想のやり方
ステップ1
リラックスして坐り、背中と首をまっすぐにします。目は軽く閉じ、メガネをかけている人は外して、口も軽く閉じておきます。すべての注意を鼻の穴の入口のところに向け、ひとつひとつの呼吸の流れを観察します。
出ていく息、入ってくる息の様子を、あるがままに観察します。長い息、短い息。左を流れる息、右を流れる息、両方を流れる息。呼吸をはやめたりコントロールすることなく、自然のままの自分の呼吸の息が流れる様子を、ただ観察し続けます。
他には何もしなくていいので、ただ息が出たり入ったりする様子に、ずっと気づいています。呼吸が自然に流れるようにし、それがどのように感じているかを単に追跡するだけです。
この時、心に雑念が浮かぶこともあるかもしれませんが、それに気づいたら、すぐにその雑念を捨てて、呼吸の観察に戻ります。雑念が浮かんだり、妄想してしまうのは自然なことです。ガッカリすることではありません。そのことになるべく早く気づいて、また呼吸の観察に戻ればいいのです。100回雑念したら、100回戻ればいいだけです。
ステップ2
鼻の穴を出入りする呼吸の観察ができるようになったら、観察する範囲を狭めていきます。両方の鼻の穴から上唇の上、人中に向けての三角形の範囲にします。鼻の穴から出た息が、上唇の上を流れ、皮膚に当たる様子を、全集中で観察します。
雑念や妄想が浮かんだら、「全集中!」と自分に言い聞かせて、鼻の下の三角形内に意識の集中を戻します。そしてひたすら全力で全集中で注意深く観察し続けます。
ステップ3
鼻の穴から上唇に向けて三角形の範囲にだけ、意識をしっかりと固定して、集中できるようになったら、さらに範囲を狭め、今度はそこに現れる感覚を観察します。
観察の範囲を人中(鼻と口との間にある縦の溝)だけにして、人中の皮膚表面に現れる感覚を観察します。最初のうちは、人中に当たる呼吸の息を手掛かりに観察し、徐々に人中の皮膚表面に集中して注意を向けます。そして皮膚の表面に現れるさまざまな感覚を観察します。
熱さ、冷たさ、くすぐったさ、むずむずした感じ、プクプクした感じ、ピクピク引きつる感じなど。なんでもいいのです。正解はありません。特別な感覚ではなく、ありのままにそこに現れている感覚を、ただひたすら観察します。
この時にその感覚を言葉にする必要も、なぜそうなるのか考える必要もありません。ただ観察していればいいのです。最終的にはこの範囲を1点にまで絞り込んで、集中を極めます。
ここでもまた、雑念や妄想が邪魔をしてくるでしょう。落ち込んだり気にしたりせずに、「あ、また妄想しちゃった」となるべく早く気づき、「人中に全集中!」と、また人中の感覚の観察に戻ればいいだけです。何度もこれを繰り返しているうちに、少しずつ少しずつですが、集中力が鍛えられ、心が確実に落ち着いていきます。
まとめ
ヴィパッサナー瞑想の合宿コースでは、全日程の1/3がアーナーパーナ瞑想の実践です。10日間コースであれば最初の3日半、30日間コースであれば10日間、毎日10時間、ひたすら鼻の下に全集中するのみです。コースにでも参加しないと、とてもできる芸当ではありませんね。しかし、頑張れば、誰でも集中できるようになり、確実に心が落ち着くのです。
そこまでできなくても自分ができる範囲で、ココロとカラダのセルフケアとして、自宅でやってみてください。呼吸は確実に、心を落ち着かせてくれますよ。