レディ・サヤドーとは
南伝上座部仏教(テーラワーダ・小乗仏教)の高僧(1846-1923)です。比丘(僧侶)でありながらも、この時代の著名な仏教学者であり著述家でした。数多くの著作は、豊富な学識によるダンマの理論(pariyatti)だけでなく、修行経験から得た深い洞察瞑想による実践法(paṭipatti)も解説したもので、ダンマの理論と実践の両方に秀でた、たぐい稀な比丘でした。
レディですが男性です。
サヤドーとは 「尊い師」という意味で、元々は国王にダンマを教える重要な役割の年長僧(長老)に与えられた敬称です。サヤドーがレディの森に隠遁した際に、多くの比丘が彼に瞑想を学びに来るようになりました。そのため、彼らを収容するために「Ledi-tawya 僧院」が建てられて、彼はレディ・サヤドー(レディ僧院の大長老)として知られるようになったのです。
レディ・サヤドーは、S.N.ゴエンカ氏の先生の先生の先生にあたります。
ミャンマーで生まれ育ったインド人実業家のゴエンカ氏の先生は、ミャンマーの政府官僚だったサヤジ・ウ・バ・キン(Sayagyi U Ba Khin 1889-1971)です。ウ・バ・キンの先生は、サヤ・テッジ(Saya Thetgyi 1873-1945)です。サヤ・テッジは普通の農民でしたが、上座部仏教の高僧レディ・サヤドーの元で7年間修行しました。
ゴエンカ氏もウ・バ・キンもテッジも在家修行者でしたが、レディ・サヤドーは正統派の上座部仏教僧です。しかも国を代表する大長老でした。つまり、私たちが現在学ぶことができるゴエンカ式の瞑想法は、このレディ・サヤドー系の瞑想法を受け継いで、世界に普及したミャンマー上座仏教の伝統的な瞑想法です。
余談ですが、ミャンマー上座部仏教の大長老マハーシ・サヤドー(1904-1982)は、レディ・サヤドーが亡くなった年に20歳で比丘になっています。なんというか、明確に引き継がれるべき人にバトンが渡されているのを感じます。
ヴィパッサナー瞑想を一般大衆に普及
レディ・サヤドー(1846年12月1日〜1923年6月27日)は、農家の生まれの無名の比丘でありながら、ビルマの王都マンダレーの僧院の比丘となり、膨大なパリヤッティ(理論:ブッダ、アラハン、聖人の教え)を学びました。
ビルマがイギリスによる植民地支配下にあった頃、レディ・サヤドーは、国の貴重な財産であるダンマの教えが十分に守られていないこと、僧侶の規律が弱まっていることに危機感を覚えました。ビルマの仏教を救おうと決意したレディ・サヤドーは、ダンマの理論や難解なアビダンマの教えをわかりやすく解説し、人々に普及させました。彼の信念は、ただの農夫でも理解できるように書くことでした。
また、ヴィパッサナー瞑想(洞察瞑想)の実践を、僧侶だけでなく、漁師や猟師、農民など、あらゆる人々に伝えた功労者です。彼の努力の結果、今日、僧侶以外の一般大衆がヴィパッサナー瞑想に親しむことができるようになったのです。
レディー・サヤドーの著書
レディ・サヤドーは、パーリ語やビルマ語で多くの随筆や解説書を手掛けましたが、中でも「7つのマニュアル(手引書)」は重要なダンマの教えとして英語に翻訳されています。
① Vipassanā Dīpanī(ヴィパッサナーマニュアル)1915
② Paṭṭhānuddesa Dīpanī(発趣論マニュアル)
③ Niyāma Dīpanī(宇宙の法則マニュアル)
④ Sammā-diṭṭhi Dīpanī(正しい見解マニュアル)
⑤ Catusacca Dīpanī(4つの真理マニュアル)
⑥ Bodhipakkhiya Dīpanī(悟りの必須条件マニュアル)
⑦ Maggaṅga Dīpanī(道の要因マニュアル)
解説書のほとんどは「Dīpanī(ディーパニー)マニュアル・手引き・明燈」と呼ばれ、ビルマで非常に人気がありました。例えば、1897年に書かれた「Paramattha Dīpanī(究極の真理のマニュアル)」は、アビダンマ哲学の集大成である「Abhidhammattha Saṅgaha(アビダンマッタ・サンガハ)」の解説書で、それまでの解釈の一部が間違いだと指摘し、現在ではレディ・サヤドーの解釈が正しいとされています。
また「パーリ聖典協会(Pāli Text Society=PTS)」を設立したイギリスの仏教学者リス・デーヴィッズ(T. W. Rhys Davids)夫人であり、パーリ翻訳者のキャロライン(Caroline Rhys Davids)とも親交があり、キャロラインは上座部仏教の経典であるティピタカの全版をローマ字に翻訳するなど、世界的な普及に多大な影響を与えました。
他にも、在家信徒の13の質問に答えた「Dhamma Dīpanī(ダンマのマニュアル)」、Dānādi Dīpanī(寄付と道徳のマニュアル)、菜食主義と牛に関する記述や、麻薬とギャンブルについてなど、さまざまな著書があります。
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Contents: 目次
レディ・サヤドーの生涯
1846年12月(江戸時代後期、日本は鎖国中)、ビルマ(現・ミャンマー)北部の農家に生まれました。続きを読む
アーナーパーナ瞑想マニュアル
1904年3月、レディ・サヤドーが57歳の時、マンダレーのキンウン・ミンギー(ミンドン王とティボー王の時代の大臣)の邸宅前に3日間滞在した際に、依頼に応じて『Ānāpāna Dīpanī(アーナーパーナの手引き)』として書き上げた、10冊目の著作です。 続きを読む
ヴィパッサナー瞑想マニュアル
『Vipassanā Dīpanī(ヴィパッサナーの手引き)』は、1915年2月にレディ・サヤドーが68歳の時、ヨーロッパの仏教徒のために執筆したものです。例えを用いたわかりやすい解説で、アビダンマの深遠な教えがたくさん語られています。 続きを読む
3:2種類の真実 究極的な真実における物質的な28現象 物質現象が生じる4つの原因
6:3つの正確な知識「無常・苦・無我」 錯覚を払拭する正確な知識 物質的・精神的集合体の生・衰・死
8:無常と苦しみを理解することが無我の理解になる 洞察に関する3つの知識
Goṇasurā Dīpanī ① 牛について
Goṇaとは「牛」のことです。レディ・サヤドーはビルマ各地を巡教する中で、「牛を殺して肉を食べてはいけない」と人々に呼びかけ、菜食主義を奨励しました。ブッダが僧たちの肉食を禁止しなかったことは認めていますが、なぜ牛を殺してはいけないのか、どうして牛肉を食べてはいけないのか、明快に説明してくれます。
『牛のための嘆願書』:頭の悪い動物は自分を守れません。
Goṇasurā Dīpanī ② アルコール・ドラッグ・ギャンブルについての教え
Surā(スラー)とは「酩酊させるもの」のことで、お酒などのアルコール類や麻薬などの薬物、そしてギャンブルを意味します。