7. Tissametteyyasuttaṃ ティッサ・メッテイヤのスッタ集
このスッタ集は、尊者ティッサ・メッテイヤとブッダの「性欲」についての問答集です。ティッサ・メッテイヤは、千人の弟子たちを連れてブッダを訪ねました。
このスッタ集は「性欲」がテーマです。出家修行者は「性交渉は避けるべきである」というブッダの教えですが、どうしてなのでしょうか。
SN-4-7-820
‘‘Methunamanuyuttassa, 性交・従事する者の (iccāyasmā tisso metteyyo) と・尊者 ティッサ メッテイヤは vighātaṃ brūhi mārisa; 破滅を 語りなさい 先生 Sutvāna tava sāsanaṃ, 聞いて あなたの 説教を viveke sikkhissāmase. 遠離を 学ぶ・しよう
尊者ティッサ・メッテイヤは:
性行為をすると
なぜ破滅するのか
教えてください。
先生、あなたの戒めを聞いて
隠遁について学ぶとしましょう。
解説
ティッサ・メッテイヤの師匠は、ブッダではなくバラモンのバーヴァリーです。彼にとってブッダは自分の師匠ではないので、先生と呼んだようです。
SN-4-7-821
‘‘Methunamanuyuttassa, 性交・従事する者の (metteyyāti bhagavā) メッテイヤ・と ブッダは mussate vāpi sāsanaṃ; 忘れる あるいは・また 説教を Micchā ca paṭipajjati, 邪悪に と 向かって行動する etaṃ tasmiṃ anāriyaṃ. これは 彼にとって ない・聖なること
ブッダはメッテイヤに:
性行為をすると
教えを忘れて
間違った方向に行動し
聖なる道から外れるのです。
解説
日本に伝わった現代の仏教では、お坊さんは肉食・妻帯・世襲制ですが、ブッダの教えでは、いずれもあり得ません。出家者は、一切の性行為(自慰行為を含む)は禁止です。在家者は、妻以外の女性と性交渉をしてはならない、という戒があります。
ブッダの教えによると「異性に対する欲は五欲全部である」そうです。目で見つめ合い、甘い声色やささやく言葉を聞き、漂う甘い香りに誘われ、口唇を重ね合わせて、肌を触れ合う。確かに、五感を総動員です。しかも心まで持っていかれるのです。つまり6つの感覚のすべてが、外の世界に支配されてしまいます。だからブッダは「あらゆるものにとらわれない」修行中である出家修行者に、性行為を禁じたのです。
SN-4-7-822
‘‘Eko pubbe caritvāna, 一人で 前に 行いながら methunaṃ yo nisevati; 性交に 彼が 従事するなら Yānaṃ bhantaṃ va taṃ loke, 乗物が 迷走する あるいは 彼を 世間は hīnamāhu puthujjanaṃ. 劣る・される 凡人と
以前は一人で行動していたのに
性行為にふけるようになると
それは暴れ馬のようなもので
世間では下品なことで
つまらない奴と呼ばれるのです。
解説
性欲は人の欲求の1つで、性的な満足を求める本能です。性欲は自然で必要なものだと思われていますが、これは子孫を残すための本能であり、食欲や睡眠欲のように、性行為をしなかったら死ぬ、ということではありません。
しかし本能と結びついているのは確かなので、欲望の中でも性欲は非常に強い衝動です。それによって勉強が手につかなくなったり、仕事がそっちのけになったり、あらゆるものに優先順位が変わる欲求で、理性によって制御するのが難しい動物的な欲求なのです。
SN-4-7-823
‘‘Yaso kitti ca yā pubbe, 名誉 名声 と その 前の hāyate vāpi tassa sā; 失われる 実に・また 彼の それは Etampi disvā sikkhetha, これを・また 見て 学びなさい methunaṃ vippahātave. 性交を 放棄すべきと
これまでの名誉や名声は
すっかり失われてしまう。
これを知って
性行為をやめることを
学びなさい。
解説
性行為にふけると、あらゆることに災いが生じます。人は性行為から得る快感に、強烈に執着します。その性行為を達成するために、すべてにおいて他者よりも自分を優先させるようになります。また、日常生活の中で不満があるとき、人はそのはけ口として性的快楽に依存することもあります。
SN-4-7-824
‘‘Saṅkappehi pareto so, 想像に 負けた 彼は kapaṇo viya jhāyati; 惨めな人 のように 思念する Sutvā paresaṃ nigghosaṃ, 聞いて 他人の 評判を maṅku hoti tathāvidho. 不満 ある その種の人は
うだうだと思い悩み
惨めな姿で妄想にとらわれ
他者からの評判を聞いては
不満を募らせるのです。
解説
性欲は独占欲を生み出します。社会で起こる犯罪の大半の原因は性欲です。幼児虐待、誘拐、殺人、児童売買など、悲惨な犯罪の背後には、必ず歪んだ性欲の過剰なエネルギーがあります。精神病の大半も、やはり歪んだ性欲が生んだものです。そこから生まれる独占欲によって苦しみが増し、人を闘いに追い込むのです。
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‘‘Atha satthāni kurute, 時にまた 刃を 作る paravādehi codito; 他者の・論で 責められた者は Esa khvassa mahāgedho, これは 確かに・あるだろう 大・貪欲で mosavajjaṃ pagāhati. 虚偽に 沈む
また、他者からなじられ
責められた者は
取り繕うようになり
非常に欲深くなり
嘘を重ねるようになる。
解説
satthāni kurute:刃を作って自分を守る=取り繕う。
SN-4-7-826
‘‘Paṇḍitoti samaññāto, 賢者と 認められ ekacariyaṃ adhiṭṭhito; 独りで行動する 保持した Athāpi methune yutto, 時にまた 性交に 結びついたなら mandova parikissati. 愚者のように 引き回される
賢者と認められ
独りで生活していた者でも
性行為をしたなら
愚者のように振り回される。
解説
人生には、あらゆるところに落とし穴があります。すれ違った異性を見て「あ、可愛い」と思っただけでも、アウトだそうです。
SN-4-7-827
‘‘Etamādīnavaṃ ñatvā, これは・賤しいと 知り muni pubbāpare idha; 聖者は 前と後に ここに Ekacariyaṃ daḷhaṃ kayirā, 独りで行動する 堅固に 為すべき na nisevetha methunaṃ. ない 耽る 性交に
これは賤しいことだと理解し
聖者はこの世の最初から最後まで
しっかりと独りの生活を守り
性行為に身を委ねないように。
解説
性行為には大きな快感を伴うため、そのような刺激的な感覚に浸っていては、微細な感覚を感じとることは到底できません。=解脱できません。
SN-4-7-828
‘‘Vivekaññeva sikkhetha, 遠離こそ 学ぶがよい etadariyānamuttamaṃ; これが・聖者達の最高のもの Na tena seṭṭho maññetha, ない それにより 最高の者と 思う sa ve nibbānasantike. 彼は 実に 涅槃の・近く
独りで離れて暮らすこと
隠遁を学びなさい。
これは高貴な者にとって
最高のものです。
でもだからといって
自分を最高だと思わないように
涅槃に近づいただけですよ。
解説
人里離れて独りで暮らせば、心を惑わす異性が通りかかることも、エロティックな画像がうっかり目に入ることも、嬌声が耳に入ることもないのです。心が浮き立っては修行にならないのです。
SN-4-7-829
‘‘Rittassa munino carato, 離れて 聖者たちが 行う kāmesu anapekkhino; 欲望を ない・期待 Oghatiṇṇassa pihayanti, 激流を・渡った 羨む kāmesu gadhitā pajā’’ti. 欲望に 束縛された 人々が・と
欲望を期待することなく
隠遁生活を行う聖者たちは
欲望に縛られて人々が羨む
激流を渡った存在なのだ。
解説
ブッダが質問に答えると、1,001人の全員がアラハンになったそうです。
Tissametteyyasuttaṃ sattamaṃ niṭṭhitaṃ. ティッサ・メッテイヤ・スッタ集 7番目 終わり
7. ティッサ・メッテイヤのスッタ集 終わり