第2章 小さな章:7. バラモンの教え① 286〜293

7. Brāhmaṇadhammikasuttaṃ バラモンの教えのスッタ集 ①

brāhmaṇa + dhamma:バラモンのダンマ(教え)についてのスッタ集です。

バラモンとは、インドのカースト制度の頂点に位置するバラモン教やヒンドゥー教の司祭階級のことです。紀元前1500年頃、イラン高原からインド北西部に侵攻したインド・アーリア人が、先住民族である有色人種ドラヴィダ人を支配するために「ヴァルナ(色)」という宗教的な身分制度を作り出しました。そして白色人種である自らを最高位の司祭・僧侶階級に置き、ブラーフマナ=バラモンと称したのが、カーストの始まりだといわれています。

このスッタ集は、そのバラモン階級の裕福な長老たちがブッダのもとにやってきて、昔のバラモンについて質問した時のものです。

その当時(紀元前6、7世紀頃)のバラモンは、聖職者でありながら汚職にまみれていました。こうしたバラモン のあり方や、カーストに批判的だったブッダは、かつてのバラモンの生活様式と、王の富を見せられて彼らに生じた変化、さらに彼らが王に生け贄として生き物を殺すように仕向けたことを説明しました。崇高だったバラモン が、に負けて堕落し、真理からかけ離れていく様子が、ブッダによって語られています。

このスッタ集は全部で32スッタありますが、前半の15スッタは忠実に教えを守っていた初期のバラモンについてです。後半の17スッタは、欲にまみれて先祖の善良な教えを放棄した腐敗したバラモンについてです。

前文

Evaṃ me sutaṃ 
– ekaṃ samayaṃ bhagavā sāvatthiyaṃ viharati jetavane anāthapiṇḍikassa ārāme. 
Atha kho sambahulā kosalakā brāhmaṇamahāsālā jiṇṇā vuḍḍhā mahallakā addhagatā vayoanuppattā yena bhagavā tenupasaṅkamiṃsu; upasaṅkamitvā bhagavatā saddhiṃ sammodiṃsu. 
Sammodanīyaṃ kathaṃ sāraṇīyaṃ vītisāretvā ekamantaṃ nisīdiṃsu. 
Ekamantaṃ nisinnā kho te brāhmaṇamahāsālā bhagavantaṃ etadavocuṃ 
– ‘‘sandissanti nu kho, bho gotama, etarahi brāhmaṇā porāṇānaṃ brāhmaṇānaṃ brāhmaṇadhamme’’ti? 
‘‘Na kho, brāhmaṇā, sandissanti etarahi brāhmaṇā porāṇānaṃ brāhmaṇānaṃ brāhmaṇadhamme’’ti. 
‘‘Sādhu no bhavaṃ gotamo porāṇānaṃ brāhmaṇānaṃ brāhmaṇadhammaṃ bhāsatu, sace bhoto gotamassa agarū’’ti. 
‘‘Tena hi, brāhmaṇā, suṇātha, sādhukaṃ manasi karotha, bhāsissāmī’’ti. 
‘‘Evaṃ, bho’’ti kho te brāhmaṇamahāsālā bhagavato paccassosuṃ. 
Bhagavā etadavoca –

私はこのように聞きました。

ブッダがサーヴァッティにあるジェータ林苑のアナータピンディカの僧院(祇園精舎)に滞在中のある日のことです。コーサラ地方の年老いて人生の佳境にある裕福なバラモンの長老たちが、多勢ブッダを訪ねてきました。彼らは丁重に挨拶し、ブッダの横に座りました。

裕福なバラモンの長老たちはブッダに言いました。 「ゴータマ様。今のバラモンは、昔のバラモンが守っていた教えに従っているでしょうか?」

「いいえ、バラモンよ。いまのバラモンは、かつてのバラモンが従っていた教えに従っていない」とブッダは答えました。

「ゴータマ様、もしよろしければ、昔のバラモンが守っていた教えを説明していただけないでしょうか?」

ブッダは答えました。
「それではバラモンたちよ、よく注意してお聞きください。私が説明しましょう」

「はい。お願いします」裕福なバラモンの長老たちはブッダに耳を傾けました。

ブッダは次のように言いました。

SN-2-7-286

‘‘Isayo pubbakā āsuṃ, 
仙人たちは 昔の あった
saññatattā tapassino;
抑制した・自己を 行者は
Pañca kāmaguṇe hitvā, 
5つの 感覚的な喜び 捨てて
attadatthamacārisuṃ.
自己の・利益・行う

かつての仙人たちは
自己を抑制できる行者だった。
五感の快楽を捨て
自分の功徳を追求していた。

解説

tāpasa:仏教徒ではないバラモンの行者(ぎょうじゃ)。tapa(苦しい修行)を行う人々。かつてのバラモンは、見る楽しみ、聞く楽しみ、嗅ぐ楽しみ、味わう楽しみ、触れる楽しみを捨て、心をコントロールできる行者だったようです。

SN-2-7-287

‘‘Na pasū brāhmaṇānāsuṃ, 
ない 家畜 バラモン・持つ
na hiraññaṃ na dhāniyaṃ;
ない 金 ない 財産(穀物)
Sajjhāyadhanadhaññāsuṃ, 
復誦・財産・幸運な
brahmaṃ nidhimapālayuṃ.
厳粛な献身の実践 財宝・守る

バラモンたちは家畜も金も穀物も
持たなかったが
聖典の復誦をかけがえのない財産として
厳粛な献身を実践し財宝を守っていた。

解説

sajjhāya:学習、復誦。バラモンにとっては、ヴェーダの聖典を読むこと。聖典から生き方を学ぶことです。

SN-2-7-288

‘‘Yaṃ nesaṃ pakataṃ āsi, 
どのような 彼らのために 作られて あった
dvārabhattaṃ upaṭṭhitaṃ;
門戸で・食べ物を 供された
Saddhāpakatamesānaṃ, 
信心・作られた・求める人に
dātave tadamaññisuṃ.
施す 彼は・考えた

門前で彼らのために
食べ物を施すのは当たり前で
信仰心のある人は、求める人には
食べ物が与えられるべきと考えていた。

解説

崇高な修行のために生きる行者のために食べ物を施すことは、信仰心のある人にとっては当たり前のことで、それによって自分も福徳を得ると考えていました。

SN-2-7-289

‘‘Nānārattehi vatthehi, 
様々な色の 衣服
sayanehāvasathehi ca;
寝具・住居 と
Phītā janapadā raṭṭhā, 
裕福な 地方 王国
te namassiṃsu brāhmaṇe.
彼らを 礼拝した バラモンたちを

裕福な地方の王国では
色とりどりの衣服や寝床
住居が提供され
バラモンたちは敬われていた。

解説

バラモンたちは何も持たなくても、人々が全てを無償で提供していました。

SN-2-7-290

‘‘Avajjhā brāhmaṇā āsuṃ, 
不殺生の バラモンたちは 存在
ajeyyā dhammarakkhitā;
不征服 ダンマに・守護された
Na ne koci nivāresi, 
ない 彼らを 誰か 妨害する
kuladvāresu sabbaso.
家の・門 全く

バラモンたちは
真理を守り不殺生で
非暴力だったので
彼らがどの家に入っても
誰も止めなかった。

解説

バラモンたちはダンマ=真理を徹底して守っていたので、決して殺生したり、他者を制圧するようなことはありませんでした。徹底して善なる存在だったので、誰もが信頼して家に上げていたのです。

SN-2-7-291

‘‘Aṭṭhacattālīsaṃ vassāni, 
48 雨季
(komāra) brahmacariyaṃ cariṃsu te;
少年の 梵行 行った 彼らは
Vijjācaraṇapariyeṭṭhiṃ, 
智慧と実践を・探求
acaruṃ brāhmaṇā pure.
行った バラモンたちは 前の

48年間、彼らは貞節を守り、
かつてのバラモンたちは
智慧と実践の探究を
行ってきた。

解説

少年の梵行 =貞節、純潔。古代インドでは、四住期(しじゅうき)という理想的な生き方がありました。人生を、学生期・家住期・林住期・遊行期の4つに分けて、それぞれのステージにおいて規範に即した生き方をすることで、幸せな人生となるというものです。

バラモン行者における学生期は、貞節を守り、身体と精神を鍛え、生きるための術を学ぶ時期です。

SN-2-7-292

‘‘Na brāhmaṇā aññamagamuṃ, 
ない バラモンたちは 他の・ない・道
napi bhariyaṃ kiṇiṃsu te;
ない・また 妻 買う 彼らは
Sampiyeneva saṃvāsaṃ, 
相愛の・だけ 共住
saṅgantvā samarocayuṃ.
一緒にいる 平等・喜ぶ

バラモンたちは
他の種族の女性に
手を出したり
妻を金品で買うこともなく
相愛の者とだけ共に暮らし
お互いに喜びを一緒にいた。

解説

昔のバラモンは長い期間、禁欲生活(学生期)を行ってから、家住期という家庭を持って、子供をつくり、祭祀を怠ることなくおこなう時期を迎えます。彼らはバラモン以外の種族の女性を妻とはしませんでした。これは種族(おそらくジャーティ)の純血を守るためです。また、世俗では妻を金品で買うということも行われましたが、彼らはそのようなことはしませんでした。

SN-2-7-293

‘‘Aññatra tamhā samayā, 
除いて それ故に 時期
utuveramaṇiṃ pati;
月経・禁欲 対して
Antarā methunaṃ dhammaṃ, 
その間に 性欲 ダンマ
nāssu gacchanti brāhmaṇā.
ない・決して 行く バラモンたちは

バラモンたちは
月経が止まる時期を除いて
性行為を控え、
女性のところへ行くことは
決してなかった。

解説

昔のバラモンが妻と性的な関係を持つのは、子供を作り、バラモンの家系を断絶しないためでした。その行為は欲望のためではなく、家系を守るためでした。

②に続きます。