第3章 大きな章:9. ヴァーセッタ① 599〜611

9. Vāseṭṭhasuttaṃ ヴァーセッタ①

2人の若者、ヴァーセッタバーラドヴァージャの意見が食い違いました。どちらも譲らなかったため、サマナ・ゴータマにどっちが正しいか質問して、決着をつけようとした時のスッタです。

このスッタ集は全部で63スッタあり、スッタニパータ の中で最も長いスッタ集になります。

前文要約

ある時、世尊はイッチャーナンガラの森に滞在していました。当時、イッチャーナンガラには、チャンキー・バラモン、タールッコ・バラモン、ポッカラサーティ・バラモン、ジャヌッソーニ・バラモン、トーデイヤ・バラモンといった、多くの優れた裕福なバラモンが暮らしていました。

散歩中の若者、ヴァーセッタとバーラドヴァージャの2人は、そんなバラモンにどうすればなれるのか、話しはじめました。

バーラドヴァージャは、「バラモンは、母方も父方も高貴な生まれで、先祖の7代目まで純粋なバラモンの血統で、生まれつき非難されたことがない人だよ」と言いました。

ヴァーセッタは、「いや、徳があり、(聖なる)業に恵まれている人がバラモンだ」と主張しました。

2人の若者はお互いの主張を譲りませんでした。そこでヴァーセッタは提案しました。

「釈迦族の息子のサマナ・ゴータマが、イッチャーナンガラの森に滞在している。彼は尊いブッダ であり、崇高で悟りを開いた者であり、栄光に満ちた人だ。バーラドヴァージャよ、サマナ・ゴータマのところへ行って、意見を訊いてみよう。そしてゴータマの意見に私たちも従おうではないか」

「いいだろう」。バーラドヴァージャが了承し、こうして2人の若者は世尊のところへと行きました。ヴァーセッタは世尊に向かって次のように言いました。

SN-3-9-599

"Anuññātapaṭiññātā, 
許された・自称する
tevijjā mayamasmubho;
三明 私たち・ある・両者は
Ahaṃ pokkharasātissa, 
私は ポッカラサーティの
tārukkhassāyaṃ māṇavo.
タールッカの・これは 弟子

私たち2人は
三明として自他共に
認められています。
私はポッカラサーティの弟子
こちらはタールッカの弟子です。

解説

Tevijjā(三明)とは、ヴェーダに関する3つの教えに明るい、よく理解しているという意味です。

SN-3-9-600

"Tevijjānaṃ yadakkhātaṃ,
三明の 時に・掘った
tatra kevalinosmase;
そこで 完全に・知り
Padakasma veyyākaraṇā, 
聖句に通じた 文典に通じた
jappe ācariyasādisā.
読誦 老師・同様の

私たちは三明を
完全に熟達しています。
聖句に精通し
文典にも通じており
老師と同様に暗誦できます。

SN-3-9-601

"Tesaṃ no jātivādasmiṃ, 
その 私たちは 出生・論について
vivādo atthi gotama;
論争が ある ゴータマよ
Jātiyā brāhmaṇo hoti, 
生まれによる バラモンは 存在
bhāradvājo iti bhāsati;
バーラドヴァージャは と 言う
Ahañca kammunā brūmi, 
私は・しかし 行為による 言う
evaṃ jānāhi cakkhuma.
このような 知るべき・何と 眼識者よ

ゴータマよ、
我々は出生論について
意見の食い違いがあります。
バーラドヴァージャは、
生まれた階級によって
バラモンになると言いますが
私は行いによると思います。
眼識者よ、
これをどう理解すればいいでしょう?

解説

一般論でのバラモンとは、インドのカースト制の最高位にあるバラモン教やヒンドゥー教の司祭階級です。古代インド哲学における、宇宙の根本原理を指すブラフマーから派生した語で、「ブラフマーに属する(階級)」という意味です。

カーストの起源には諸説あり、紀元前13世紀頃、インド・アーリア人が原住民を支配するために「ヴァルナ(四種姓)」を作り出し、自らを最高位の司祭・僧侶階級に置き、バラモンと称したのが始まりという説があります。

また、インド亜大陸(インド・バングラデシュ・パキスタン・ネパール・ブータンなど)には、もともとJāti(ジャーティ)というカーストの基礎となる共同体の単位があります。これは職業・地縁・血縁的な社会集団の階層を示すもので、生まれた者は親の職業を自動的に受け継ぎ、地域のために働きます。これは共通の祖先を有する関係を重要視した内婚集団でもあり、いわゆる世襲制です。

このスッタ集ではジャーティについて語っているので、この世襲制に絞って解釈します。

ジャーティ区分でのバラモンは、ゴートラ(系族)という神話上の聖者(isi イシ)を始祖とする血縁集団です。ゴートラ名は、父系一族のうち最も古い祖先と考えられる7人の聖仙の名から「◯◯◯の末裔」と称します。ゴートラ・イシは本来7人でしたが、後世に増えたそうです。

ジャーティは、もともとは排他的な制度ではなく、むしろ分業による相互補助的な制度であったようです。生まれながらに仕事の心配も、結婚の心配も、住むところの心配もしなくていいのですから。

SN-3-9-602

"Te na sakkoma saññāpetuṃ, 
彼を ない できる 説得する
aññamaññaṃ mayaṃ ubho;
互いに 私たちを 両者は
Bhavantaṃ puṭṭhumāgamhā, 
世尊に 尋ねるため・来た
sambuddhaṃ iti vissutaṃ.
正覚者 と 有名な

私たちはお互いに
相手を説得できません。
正覚者として有名な世尊に
お尋ねするために来たのです。

解説

ヴァーセッタとバーラドヴァージャは、お互いに「私の意見は正しい相手の意見は間違っている」と考えました。二極分裂です。「そうか、君はそう考えるんだ。そういう考えもあるんだねー」と思うことができれば、二極の中間に自分を配してバランスをとることになりますが、お互いに中間には立ちたくないようです。

SN-3-9-603

"Candaṃ yathā khayātītaṃ, 
月に ように 滅尽・過ぎた
pecca pañjalikā janā;
過ぎ去った 合掌の 人々が
Vandamānā namassanti, 
尊敬し 拝む
evaṃ lokasmi gotamaṃ.
このように 世間では ゴータマを

世間では満月に向かって
人々は手を合わせて
ゴータマ を尊敬して
拝んでいます。

解説

滅尽を過ぎた月=満月

SN-3-9-604

"Cakkhuṃ loke samuppannaṃ, 
眼を 世間に 出現
mayaṃ pucchāma gotamaṃ;
私たちが 尋ねる ゴータマに
Jātiyā brāhmaṇo hoti, 
生まれにより バラモンに なる
udāhu bhavati kammunā;
或いは なる 行為により
Ajānataṃ no pabrūhi, 
ない・知る 私たちに 説いてください
yathā jānesu brāhmaṇaṃ’’.
ように 知る バラモンを

この世の眼として出現した
ゴータマに我々は尋ねます。
人は生まれによって
バラモンになるのですか?
それとも
行いによってなるのですか?
バラモンを理解できるように
知らないことを
我々に教えてください。

SN-3-9-605

"Tesaṃ vo ahaṃ byakkhissaṃ, 
それを あなたたちに 私は 説明しよう
(vāseṭṭhāti bhagavā) 
ヴァーセッタ・と 世尊は
anupubbaṃ yathātathaṃ;
順番に ありのままに
Jātivibhaṅgaṃ pāṇānaṃ, 
生まれの・分別 生き物の
aññamaññā hi jātiyo.
相互に に 種は

ブッダ:
ヴァーセッタよ、
私はあなたたちに順を追って
ありのままに説明しよう。
生き物には出生による分別があり
種類が実に違う。

解説

これまでにないタイプの説明が始まりました。

SN-3-9-606

"Tiṇarukkhepi jānātha, 
草・木・も 知りなさい
na cāpi paṭijānare;
ない しかし・また 知っている
Liṅgaṃ jātimayaṃ tesaṃ, 
印 生まれながらの それには
aññamaññā hi jātiyo.
相互に 実に 種は

草木もそうです。
説明しなくても
生まれながらの特徴があり
種類が実に違う。

解説

草木もさまざまな種類があります。ツユクサやタンポポ、ブナの木や桜の木、カエデの木など、草木はなにも説明しなくても、生まれた時から種属の違いが決まっています。

SN-3-9-607

"Tato kīṭe paṭaṅge ca, 
それから 昆虫 コオロギ と
yāva kunthakipillike;
まで 蟻
Liṅgaṃ jātimayaṃ tesaṃ, 
印 生まれながらの それには
aññamaññā hi jātiyo.
相互に に 種は

それから昆虫も
コオロギから蟻まで
昆虫には生まれながらの
特徴があり
種類が実に違う。

解説

昆虫も生まれながらに、コオロギ、蟻、セミなど、種属が決まります。

SN-3-9-608

"Catuppadepi jānātha, 
4つの足・も 知りなさい
khuddake ca mahallake;
小なる と 大なる
Liṅgaṃ jātimayaṃ tesaṃ, 
印 生まれながらの それには
aññamaññā hi jātiyo.
相互に に 種は

四つ足の動物もそうです。
大小の動物には
生まれながらの
特徴があり
種類が実に違う。

解説

四つ足の動物も生まれながらに、牛、馬、犬など、種属が決まります。

SN-3-9-609

"Pādūdarepi jānātha, 
爬虫類・も 知りなさい
urage dīghapiṭṭhike;
蛇を 長い・脊椎の
Liṅgaṃ jātimayaṃ tesaṃ, 
印 生まれながらの それには
aññamaññā hi jātiyo.
相互に に 種は

爬虫類もそうです。
蛇やトカゲ
爬虫類には生まれながらの
特徴があり
種類が実に違う。

解説

爬虫類も生まれながらに、蛇、ワニ、トカゲなど、種属が決まります。

SN-3-9-610

"Tato macchepi jānātha, 
それから 魚・も 知りなさい
odake vārigocare;
水生の 水中で・生きる
Liṅgaṃ jātimayaṃ tesaṃ, 
印 生まれながらの それには
aññamaññā hi jātiyo.
相互に に 種は

それから魚もそうです。
水中で生きる水生の
魚には生まれながらの
特徴があり
種類が実に違う。

解説

魚も生まれながらに、鮭、サバ、マグロなど、種属が決まります。ちなみに秋鮭や紅鮭は、人間が勝手につけた呼び名です。

SN-3-9-611

"Tato pakkhīpi jānātha, 
それから 鳥・も 知りなさい
pattayāne vihaṅgame;
翼に・乗る 空を・行く
Liṅgaṃ jātimayaṃ tesaṃ, 
印 生まれながらの それには
aññamaññā hi jātiyo.
相互に 実に 種は

それから鳥もそうです。
翼に乗って空を飛ぶ
鳥には生まれながらの
特徴があり
種類がまさに違う。

解説

鳥も生まれながらに、鳩、つばめ、白鳥など、種属が決まります。

実に素晴らしい説明ですね。すごく納得、それで? と続きが楽しみになるスッタ集です。