第2章 小さな章:5. 妖怪スーチローマ 273〜275

5. Sūcilomasuttaṃ スーチローマのスッタ集

第2章の5番目のスッタ集は、妖怪スーチローマとブッダの問答です。

yakkha(ヤッカ:妖怪・魔物)のスーチローマは、もしブッダが質問に答えられなければ、危害を加えると脅します。ブッダがそんな脅しを怖がるはずもなく、「なんでも質問しなさい」と妖怪を促します。

yakkhaとは、amanussā(人間ではない存在)で、夜叉(やしゃ)・鬼・魔物などと呼ばれています。霊界の上層部、あるいは霊界よりも上の領域である阿修羅界の存在ともいわれています。正解は知りません。

前文

Evaṃ me sutaṃ 
– ekaṃ samayaṃ bhagavā gayāyaṃ viharati ṭaṅkitamañce sūcilomassa yakkhassa bhavane. 
Tena kho pana samayena kharo ca yakkho sūcilomo ca yakkho bhagavato avidūre atikkamanti. 
Atha kho kharo yakkho sūcilomaṃ yakkhaṃ etadavoca 
– ‘‘eso samaṇo’’ti. 
‘‘Neso samaṇo, samaṇako eso. Yāvāhaṃ jānāmi yadi vā so samaṇo, yadi vā so samaṇako’’ti.
Atha kho sūcilomo yakkho yena bhagavā tenupasaṅkami; upasaṅkamitvā bhagavato kāyaṃ upanāmesi.
Atha kho bhagavā kāyaṃ apanāmesi. Atha kho sūcilomo yakkho bhagavantaṃ etadavoca 
– ‘‘bhāyasi maṃ, samaṇā’’ti? 
‘‘Na khvāhaṃ taṃ, āvuso, bhāyāmi; api ca te sapphasso pāpako’’ti.
‘‘Pañhaṃ taṃ, samaṇa, pucchissāmi. Sace me na byākarissasi, cittaṃ vā te khipissāmi, hadayaṃ vā te phālessāmi, pādesu vā gahetvā pāragaṅgāya khipissāmī’’ti.
‘‘Na khvāhaṃ taṃ, āvuso, passāmi sadevake loke samārake sabrahmake sassamaṇabrāhmaṇiyā pajāya sadevamanussāya yo me cittaṃ vā khipeyya hadayaṃ vā phāleyya pādesu vā gahetvā pāragaṅgāya khipeyya. Api ca tvaṃ, āvuso, puccha yadākaṅkhasī’’ti. 
Atha kho sūcilomo yakkho bhagavantaṃ gāthāya ajjhabhāsi –

私はこのように聞きました。

ある時、ブッダはガヤーの町の妖怪スーチローマが住む領地内にいました。その時、妖怪のスーチローマとカーラが、ブッダのいる場所に通りかかりました。

カーラはスーチローマに、「あれは出家僧、道の人だ」と言いました。

スーチローマは、「いや、出家僧ではない、卑しい行者だ。出家僧か卑しい行者か、俺が確かめてやる」と答えました。妖怪スーチローマはブッダに向かって行き、身体を近づけました。ブッダは身を引いて退けました。

そこで妖怪スーチローマは「隠者よ、あんたは私が怖いのか」とブッダに尋ねました。ブッダは「いいえ。友よ、私はあなたを怖れてはいない。しかしながら、あなたに触れるのは罪深いことだ」と言いました。

スーチローマは言いました。「出家僧よ、あんたに質問しよう。もし答えられないなら、心をかき乱すか、心臓を引き裂くか、足を掴んでガンジス川の向こう岸に投げてやる」

「友よ、私はこの世にも天界、魔界、ブラフマー界にも、神々や人間、修行者やバラモンからなる存在の中で、私の心をかき乱したり、私の心臓を引き裂いたり、私の足を掴んでガンジス川の向こう岸に投げることができる者は、誰もいないと思うのです。
友よ、あなたが聞きたいことがあるのなら、私に質問しなさい」とブッダは答えました。

そこで妖怪スーチローマは、ブッダに次のように語りかけました。

解説

この前文は、第1章「10. 森に住む妖怪アーラヴァカ」の前文と後半部分は一緒です。妖怪スーチローマは、怖れがあるようでは「出家僧ではない」と考えたようです。ヤクザな感じの言動に、親近感がわきますね。

ガヤーは、古代インドのマガダ王国の都市で、パータリプトラ(現在のパトナ)の南、ガンジス川沿いにあったそうです。ブッダがここを訪れたのは偶然ではなく、妖怪スーチローマとカーラが、悟る資質があると見抜いてのことでした。

SN-2-5-273

‘‘Rāgo ca doso ca kutonidānā, 
情熱は と 憎しみは と 何・原因
aratī ratī lomahaṃso kutojā; 
不快 快 身の毛がよだつ どこから・発生
Kuto samuṭṭhāya manovitakkā, 
どこから 起源 心は・思考
kumārakā dhaṅkamivossajanti’’.
少年 カラス・ように・力づくで・投げる

情熱や憎しみは
何が原因なのか?
嫌悪や喜び、恐怖は
どこから発生するのか?
少年がカラスを煩わすような
そんな心の思いは
どこから発生するのか?

解説

妖怪スーチローマ、意外にもいい質問です。

SN-2-5-274A

‘‘Rāgo ca doso ca itonidānā, 
情熱は と 憎しみは と ここより・原因
aratī ratī lomahaṃso itojā;
不快 快 身の毛がよだつ ここから・発生
Ito samuṭṭhāya manovitakkā, 
ここから 起源 心は・思考
kumārakā dhaṅkamivossajanti.
少年 カラス・ように・力づくで・投げる

情熱と憎しみは
この身体が原因。
嫌悪、喜び、恐怖は
この身体から生じ、
この身体から生じた思いは
少年がカラスを煩わすように
心を煩わす。

解説

すべての情念は肉体から生じるとブッダ は答えます。

SN-2-5-274B

‘‘Snehajā attasambhūtā, 
愛情から 我・生じた
nigrodhasseva khandhajā;
カジュマルの木・のように 幹・発生
Puthū visattā kāmesu, 
豊富な もつれて 欲望に
māluvāva vitatāvane.
つる草 伸ばした・森に

ガジュマル木の幹が
複雑に絡まるように
愛情から自我が生じる。
森につる草がはびこるように
欲望はもつれて広がる。

解説

カジュマルは、幹から気根を地面に向かって伸ばし、自分の幹に複雑に絡みつく絞め殺し植物です。愛情から自我が生じて、欲望となり、肉体に絡みついている、ということです。

SN-2-5-275

‘Ye naṃ pajānanti yatonidānaṃ, 
彼らは それを 知るなら そこから・原因 
te naṃ vinodenti suṇohi yakkha;
あなたは それを 追い出す 聞け 妖怪よ
Te duttaraṃ oghamimaṃ taranti, 
あなたは 渡りがたい 激流を・これを
atiṇṇapubbaṃ apunabbhavāyā’’ti.
ない・渡る・前に ない・生まれ変わることは と

それが原因だと知っている者は
それを追い払う。
妖怪よ、聞きなさい
この渡るのが難しく
これまで渡ったことがない
激流を渡りなさい
再び生まれないために。

と、ブッダ は言いました。

解説

妖怪でも、アラハンになれるのですね。頑張れ、スーチローマ!

Sūcilomasuttaṃ pañcamaṃ niṭṭhitaṃ.
スーチローマの・スッタ集 5番目 終わり

5. 妖怪スーチローマのスッタ集 終わり