心の正体:心所(cetasika)

心とはいったい何なのか?

私たちは、生きています。生きているから、呼吸したり、歩いたり、食べたりします。身体の細胞が動いているから、生きていると言えます。心臓の動きがなくなれば、私たちは死んでいます。生きている=動いていることでもあります。

では、誰が動かしているのでしょう?

食べたり、歩いたりするのは、自分の意思ですが、心臓を動かしたり、血液を流したり、消化したりするのは、誰がコントロールしているでしょう? でしょうか?

です。心がすべてやっています。意識して動かすことも、無意識で動かすことも、すべて心がやっています。生きるための機能を動かしているのは「」です。 

感覚があるから動く

私たちが「動く」のは、身体に感覚があるからです。感覚がある肉体は、動かないと苦痛を感じます。苦痛だから動く。その連続が「生きている」ということです。この感覚を感受するのが心です。心がすべてをやっています。

考えたり、怒ったり、悲しかったりするのが心だ、と思うかもしれませんが、思考感情は心の働きの一部です。身体の感覚を感受するのが心の仕事です。

つまり心は対象をキャッチして知る機能です。この知るだけの機能が「citta(チッタ)=意識」です。

心の中身

私たちが「」だと感じているのは、実は「citta(チッタ)=意識」ではなく、「cetasika(チェータシカ)心に生じる精神作用心の中身・性質」です。

この精神作用は「振動するエネルギー」で52種類あり、仏教用語では「心所(しんじょ)」と呼びます。

楽しい」と思う時には、心に楽しい振動が生じています。「悲しい」と思う時には、心に悲しい振動が生じています。心にどのような振動が発生しているかで、心の状態が変わります

人が「楽しい」とか「悲しい」と思う時、「私が楽しんでいる」「私が悲しんでいる」のではなく、実際には「心に起きる振動を感受してそう思うだけなのです。

心は純粋

本来、心は純粋で、善でも悪でもありません。まっさらな状態です。

そこに52の振動のうち、健全な振動が多く生じれば健全な心に、不健全な振動が多く生じれば不健全な心に傾きます。

心に怒りの振動が多くあれば怒りっぽい人になり、心に思いやりの振動が多くあれば優しい人になります。しかしそれは常に変化していて、固定されたものではありません。

飼い犬とニコニコ顔で散歩していた優しそうなおばあさんが、ぶつかってきた自転車に血相を変えて怒りを露わにしたりします。状況や相手によって、次の瞬間にどんな振動が心に生じるかは、自分にもわからないのです。

性格・人格は精神作用の構成

性格とはキャラクターのことです。

その人物のベースとなる先天的性質と、環境や経験の影響を受けて人生の経過と共に外からの刺激によって構成される後天的性質が合わさって、変化しながら形成される、個人の感情・行動の傾向特徴です。

この性格は、心にどんな精神作用がどれだけあるかで決まりますが、常に固定されたものではなく、場や相手によって変化し続けています。

例えば、家では怒ってばかりのお父さんが、会社では温厚でおとなしい人だったりするのはよくあることです。この場合、お父さんの性格は、お母さんから見た性格、子供から見た性格、上司から見た性格、部下から見た性格などなど、全部違うのです。似ていたとしても完全一致はあり得ません

人の性格は、その人が接する存在の数だけイメージがつくられて、その人自身が「私の性格はこうだ」とイメージする性格も、心の中身が瞬間瞬間に変わっているので、固定できるような実体はないのです。あるとすれば傾向だけです。

人は、常にこの性格(キャラ)をアップデートし続けて、自分の持つイメージ通りに他から思われたいと望むのです。これが人格となります。

人格」とは、パーソナリティのことです。「性格」を中心として、その人を取り巻く環境や地域・国など、外界との関わりの中で形成される人間性人柄を表します。

心に生じる52の精神作用の組み合わせで、性格・人格が形成されることを理解して、いま自分の心にはどんな精神作用があるかに気づくことができるようになれば、生きることがとても楽になります。そして、そもそも気づいたところで、すぐに変わってしまうから無駄過ぎる。何と思われてもいいや〜になれば、もっと楽ラクです。

52の性質の振動

52の性質の振動(振動エネルギー)のうち、13は基本的な性質の振動で、他の振動の影響によって健全にも不健全にもなります。14は不健全な性質の振動を発生し、25は健全な性質の振動を発生します。

私たちの状態や動作を表す言葉はすべて、この52の振動に基づいた用語です。何をしても、そこには必ず振動が生じています。瞬間、瞬間、私たちの心には、健全な振動が生じるか、不健全な振動が生じるか、そのどちらかなのです。

愚者か賢者かの違いは、この心の精神作用の構成要素が、健全不健全かで決まります。

だから、心を暗く狭く弱くする14の性質の振動が生じないようにして、心を明るく広く強くする25の性質の振動を育てる必要があるのです。

どんな人でも、52の性質の振動にきちんと気づくことができるようになると、人生はどんどん楽しくなります。心が自由になるので、何が起きてもへっちゃらになります。「さあ、今日はどんな問題(課題)が起きるかな? 私の心は怒るかな? 嘆くかな? 喜ぶかな?」

そして常に平静に気づくことができると、何が起きても「へー、そうなんだー。はい、クリア!」できるようになるのです。せっかくの人生、この心の正体を理解して存分にお楽しみください。

cetasika
心所の概念図:水色の大きな球体が「」。緑色の7つの球はどんな心にも必ずある要素。白球と黒球は共存しないので、白球が多くなれば明るい健全な心に、黒球が多ければ暗い不健全な心になる

基本的な13の精神作用

基本的な13の精神作用は、健全にも不健全にもなる性質の振動です。このうち7つは誰にでもある振動で、残りの6つは人によって生じたり生じなかったりする振動です。

不健全な14の精神作用

心を汚す不健全な性質の振動14種類あります。私たちが抱くストレスや悩み苦しみは、この振動によって生じます。

健全な25の精神作用

心を明るく大きく強くする健全な性質の振動25種類あります。誰にとっても役立つ振動です。