7. Vasalasuttaṃ ヴァサラ・卑しい人 ④
SN1-7-135
‘‘Yo ve anarahaṃ santo, 人は 実に ない・アラハン なる arahaṃ paṭijānāti; アラハンは 公言する Coro sabrahmake loke, 泥棒 ブラフマー界を含む 世界 eso kho vasalādhamo. これは 実に ヴァサラ・最下の
悟ってもいないのに
悟ったふりをする者は
ブラフマー界を含む
すべての界において盗人であり
最も卑劣なヴァサラです。
解説
このスッタから最後の行が違います。最低最悪のヴァサラは、アラハンでもないのに、アラハンだと公言する人です。そんな人は全宇宙の存在界において盗人だということです。
SN1-7-136
‘‘Ete kho vasalā vuttā, これが 実に ヴァサラと 言われる mayā yete pakāsitā; 私により あなた方に 説明する Na jaccā vasalo hoti, ない 生まれによって ヴァサラは なる na jaccā hoti brāhmaṇo; ない 生まれによって なる バラモンは Kammunā vasalo hoti, 行為によって ヴァサラは なる kammunā hoti brāhmaṇo. 行為によって なる バラモンは
これらが私からあなた達に説明する
ヴァサラと呼ばれる者です。
生まれによって
ヴァサラになるのではなく、
生まれによって
バラモンになるのでもない。
行為によってヴァサラになり、
行為によってバラモンとなるのです。
解説
このスッタ集の核心となるスッタです。ここでの「行為によってバラモンとなる」は、カースト制度のバラモン階級のことではなく、真に敬われるべき存在である「アラハン」を指しています。
ブッダはダンマパダの最終章において、「最高の階級に相応しい人々をバラモンと呼ぶ」と宣言しました。つまりブッダにとっては「バラモン=アラハン」であり、生まれは関係なく、努力して悟った人であるということです。
カーストは親から受け継ぐ階級で、カーストによって生涯の身分や職業が決定します。誕生後にカーストの変更はできませんので、生まれた瞬間に人生が決まります。ヒンドゥー教の世界観である輪廻転生に基づく原理で、現在のカーストは過去生の結果であるから、受け入れて生きるべきだとされます。また、現世の行為によっては、来世で高いカーストに上がれるとしていますが、ヴァサラは絶対に輪廻転生できない(生まれ変わってもずっとヴァサラ)とされる人々です。
SN1-7-137
‘‘Tadamināpi jānātha, それ・により 知りなさい yathāmedaṃ nidassanaṃ; ように 私の・実例 示す Caṇḍālaputto sopāko, チャンダーラ・子は ソパーカは mātaṅgo iti vissuto. マータンガ と 有名
私が実例を示すから
あなた達も知っておきなさい。
チャンダーラの子ソパーカは
マータンガ族の有名人です。
解説
チャンダーラは「死体の処理を行う者」を意味し、カースト制度のヴァサラに含まれる人々です。マータンガは非アーリア人系の部族です。
チャンダーラの子として生まれたソパーカ(浮浪児という意味)は、生後すぐに父親(母親説もあり)が急死し、叔父の養子になりました。7歳の時、従兄弟と喧嘩したことが原因で、叔父はソパーカを墓地に連れて行き、両手を縛り、ジャッカル(狼のような動物)に食べられるようにと死体に縛り付けました。
ブッダはソパーカにアラハンの資質を見つけ、ソパーカを助けました。ソパーカはブッダの教えを聞いてすぐにソータパンナになりました。
SN1-7-138
‘‘So yasaṃ paramaṃ patto, 彼は 名誉を 最上の 得た mātaṅgo yaṃ sudullabhaṃ; マータンガは それを 極めて得難い Āgacchuṃ tassupaṭṭhānaṃ, 来た 彼に・仕えるために khattiyā brāhmaṇā bahū. クシャトリヤ バラモン 多数
このマータンガ族は
極めて得難い
最高の名誉を手に入れました。
王族やバラモンが大勢
彼に奉仕するためにやって来たのです。
解説
ヴァサラであるマータンガ族が名誉を得て、クシャトリヤである王族・武族やバラモン階級が、彼に奉仕するのですから、立場が大逆転です。
SN1-7-139
‘‘Devayānaṃ abhiruyha, 神・馬車で 昇る virajaṃ so mahāpathaṃ; 穢れのない 彼は 偉大な道を Kāmarāgaṃ virājetvā, 快楽の欲を 破壊し brahmalokūpago ahu; ブラフマー界に生まれ変わった 存在 Na naṃ jāti nivāresi, ない 彼が 誕生 妨害 brahmalokūpapattiyā. ブラフマー界への誕生を
快楽の欲望を破壊し
穢れのなくなった彼は
偉大な道を天の馬車に乗って
昇天して行きました
彼の誕生を妨げるものはなく
ブラフマー界の存在として
生まれ変わったのです。
解説
ヴァサラは絶対に輪廻転生できないと言われていたのに、生まれ変わってブラフマー界に行ったとブッダ が言うのです。ブッダは既得権を振りかざすバラモン階級を戒め、ヴァサラでもブラフマー界に生まれ変わると宣言しました。
Devayānaṃとは、デーヴァ神の馬車という意味で、4つのルーパ・ジャーナ(色界のジャーナ体験)と4つのアルーパ・ジャーナ(無色界のジャーナ体験)の、8つのジャーナの達成を表しています。ジャーナについて詳細はこちら
SN1-7-140
‘‘Ajjhāyakakule jātā, 司祭・家柄 生まれ brāhmaṇā mantabandhavā; バラモンたちは 聖典・親しむ Te ca pāpesu kammesu, 彼らは また 悪い 行為において abhiṇhamupadissare. 連続・見られる
司祭階級に生まれ
ヴェーダの聖典に親しむ
バラモンであっても
悪行を繰り返している。
解説
mantaとは「真言、呪文、祝詞、経典、聖典」のことですが、ここではバラモンについて語っているので、ヴェーダの聖典としました。
バラモン教の聖典「ヴェーダ」を教えられるのはバラモンだけです。クシャトリヤ(王族・武族)やヴァイシャ(庶民)は学ぶことはできても(スードラ以下は学ぶこともNG)、教えることは禁じられていました。そのため、現在でも大学教授など、教育者の大半をバラモン階級が独占しています。
SN1-7-141
‘‘Diṭṭheva dhamme gārayhā, 理解された・ように ダンマで 罰され samparāye ca duggati; 来世で と 処罰 Na ne jāti nivāreti, ない 彼らを 生まれは 防ぐ duggatyā garahāya vā. 苦悩 罰 あるいは
ご存知のように
ダンマによって罰せられ
来世では処罰が待ち受けています。
彼らが苦悩あるいは罰せられる
生まれになるのを
防ぐことはできない。
解説
Diṭṭheva dhamme は「現法において、現世で」という訳が一般的のようですが、diṭṭha+va dhamme「理解されている・ように、ダンマでは」=「バラモン教でも理解されているようにダンマでは」と解釈しました。
ブッダは因果の法則で「自分の行為の結果は、善でも悪でも自分がその結果を来世で受け取る」としています。善行をすれば功徳となって良い生まれとなり、悪行をすればダンマ(自然・真理)が罰して悪い生まれとなります。
自分の行為の結果は、子孫が受け取ることはありません。原因をつくった本人が、結果を来世で生まれ変わって受け取ります。それが自然の法則です。バラモン教の教義においても、同じ考えで、「人間がこの世で行った行為が原因となって、次の世の生まれ変わりの運命が決まる」としています。
SN1-7-142
‘‘Na jaccā vasalo hoti, ない 生まれによって ヴァサラは なる na jaccā hoti brāhmaṇo; ない 生まれによって なる バラモンは Kammunā vasalo hoti, 行為によって ヴァサラは なる kammunā hoti brāhmaṇo’’ti. 行為によって なる バラモンは
生まれによって
ヴァサラになるのではなく
行為によってヴァサラになり
行為によってバラモンになるのです。
解説
ブッダの名言であり、2500年以上前の革命的な言葉ですが、にも関わらず、現代もなおインドをはじめ世界中でこの問題は何も変わらず存在しています。
1950年に制定されたインド憲法17条によって「不可触民(アンタッチャブル)」という差別用語は禁止され、指定カースト(Scheduled Castes)と呼称が変わりました。公共機関や施設に優先的に雇用される機会を与えられ、学校入学や奨学金制度にも適用されていますが、現在も約2億人いる貧困層の先住民であり、ブッダの時代から変わらずインド社会において根拠なく抑圧され続けています。彼らは現在、「Dalit(ダリット)壊された民」と自称し、インドを含む南アジアで虐待を受け、社会的地位を向上させようという試みも激しく弾圧されています。
現代のインド社会は、バラモン、クシャトリヤ、ヴァイシャの「高位カースト」15%が政治・経済・行政などすべての権力を握り、スードラ以下の残り85%の国民を支配しています。高位カーストはアーリア人(インド北部に侵略して定着した征服者)の末裔で、このアーリア人種(白人)が、先住民であるダリット(黒人・土人)を差別し、抑圧しています。
カーストの語源はラテン語の「castus(純血)」です。カースト制の本質は単なる「人種差別」であり、これはインド社会に固有の問題ではありません。
Evaṃ vutte, aggikabhāradvājo brāhmaṇo bhagavantaṃ etadavoca – ‘‘abhikkantaṃ, bho gotama…pe… upāsakaṃ maṃ bhavaṃ gotamo dhāretu ajjatagge pāṇupetaṃ saraṇaṃ gata’’nti.
このように言われると、バラモン司祭アッギカ・バーラドヴァーヤは、ブッダに向かってこう言いました。「素晴らしい! ゴータマ君…中略…尊いゴータマ様の従者として私を受け入れてください。今日からあなたが生きている限り、一生帰依してお供します」と。
解説
pe=peyyāla は、中略の意味で、経典中の明白な常用文を省略する時に用い、略して pe または la と書きます。中略部分のパーリ語の原典が見つけられませんが、英語訳されたものによると、「倒されたものを起こし、隠されたものを明らかにし、道に迷った人に道を示し、目で形を見ることができるように暗闇を灯りで照らし、ゴータマ様は様々な方法でダンマを明らかにされた」となっているようです。真偽のほどは確認できていないので、ご参考程度に。
Vasalasuttaṃ sattamaṃ niṭṭhitaṃ. ヴァサラのスッタ集 7番目 終わり
7.ヴァサラのスッタ集 終わり