第5章 彼方への道:8. ヘーマカの質問 1090〜1093

8. Hemakamāṇavapucchā ヘーマカ青年の質問

尊者ヘーマカのスッタ集は4つです。

Hemaka は、ヘマカではなくヘーマカと読みます。パーリ語では「e」と「o」は、原則として「エー」「オー」と長音になります。Gotamaゴタマではなく、ゴータマです。ただし「e」や「o」の後に、同じ子音が2つ続く場合には、促音(小さい「ッ」)になります。mettāメーッターではなく、メッターです

SN-5-8-1090

‘‘Ye me pubbe viyākaṃsu, 
彼らは 私に 以前に 説き明かした
(iccāyasmā hemako)
と尊者 ヘーマカは
Huraṃ gotamasāsanā;
他界で ゴータマの・教え
Iccāsi iti bhavissati, 
こうだった と あるだろう
sabbaṃ taṃ itihītihaṃ;
すべて それは 伝聞
Sabbaṃ taṃ takkavaḍḍhanaṃ, 
すべて それは 思考の・増加
nāhaṃ tattha abhiramiṃ.
ない・私は そこに 喜び

尊者ヘーマカ:
ゴータマの教えを聞く前まで
かつて私が教えられたことは
「こうだった、こうなるだろう」と
すべてが伝聞であり
すべてが推測の考えで
私はそこに喜びを
見出せませんでした。

解説

私たちは、いろいろなことを知っているようでいて、実際に自分でやってみて、そうだと知っていることは、極わずかなのかもしれません。科学的に証明されたことも、実際にはすべては推測です。

例えばある物体の長さを測り、それが1メートルだったとしても、それは推測です。私たちがメートル法で1メートルだと習ったことは、単に共通認識としてそう決められた単位に従っているだけで、実際にはある長さを1メートルだとした仮定に過ぎないからです。

SN-5-8-1091

‘‘Tvañca me dhammamakkhāhi, 
あなたは・そして 私に ダンマを・説いて下さい
taṇhānigghātanaṃ muni;
渇望を・根絶する 聖人よ
Yaṃ viditvā sato caraṃ, 
それを 知り 気づき 行い
tare loke visattikaṃ’’.
渡る この世の 執着を

尊者ヘーマカ:
渇望を根絶するダンマを
私に教えてください。
聖人よ、
もしそれを理解し
気づきをもって行うなら
この世で執着を越えることが
できるでしょう。

解説

taṇhā(タンハー):渇望。最終的に克服すべき欲のことです。

SN-5-8-1092

‘‘Idha diṭṭhasutamutaviññātesu, 
この世で 見たもの・聞いたもの・考えたもの・意識したもの
piyarūpesu hemaka; 
好きな・形態について ヘーマカ
Chandarāgavinodanaṃ, 
衝動・欲望・除去
nibbānapadamaccutaṃ.
涅槃・境地・不死

ブッダ:
この世で見たり聞いたり
考えたり意識した
様々な好きなものに対して
衝動と欲望を取り除くことが
不死の涅槃の境地である。

解説

何かを見たり、聞いたり、考えたりした時に、その対象に対して「気に入った」と思う心が「Chanda(チャンダ)ひかれる衝動」です。その次に現れる心の動きが、その自分の好みのものに対して、「欲しい。自分のものにしたい。もっと〜したい」などと思う心「rāga(ラーガー)欲望」です。

piya(ピヤ)好き」はポジティブな感情だと思いがちですが、単なる主観的な感情でしかありません。好きな対象に入れ込んでいる状態で、束縛されているのです。

自分にとって好きなもの、愛しいものが、自分を苦しませる要因であることに気づいて、好む気持ちと、欲しいと思う欲や願いを取り除くことが、涅槃への道です。街を歩いていて、すれ違った人に対して「お、可愛い」と思うのもNGなのです。

SN-5-8-1093

‘‘Etadaññāya ye satā, 
このことを・了知して 彼らは 気づいた人
diṭṭhadhammābhinibbutā;
見る・真理を・涅槃に至った人
Upasantā ca te sadā, 
寂静な人 と 彼らは 常に
tiṇṇā loke visattika’’nti.
超えた この世の 執着を と

ブッダ:
このことに気づき
悟った人は
真理を見て
涅槃に至った人であり
常に穏やかで
この世の執着を超えている。

このようにブッダは言いました。

解説

Etadaññāyaetad(このことを)+ājānāti(了知する)。了知とは、はっきりと知ること、悟ることです。ヘーマカはこの後、アラハンになりました。

Hemakamāṇavapucchā aṭṭhamā niṭṭhitā.
ヘーマカ・青年・質問 8番目 終わり

ヘーマカ青年の質問 終わり