第1章 蛇:11. 勝利 202〜208

11. Vijayasuttaṃ 勝利 ②

SN1-11-202

Yadā ca so mato seti, 
の時に と 彼が 死んだ 臥す
uddhumāto vinīlako;
膨張し 青黒くなり
Apaviddho susānasmiṃ, 
捨てる 墓場に
anapekkhā honti ñātayo.
無関心 存在 親族も

死ぬと肉体は横たわり
膨れ上がって青黒くなり
死体置き場に捨てられ
親族ですら無関心になる。

解説

人は死んだ瞬間に、肉体から心(意識)が離れ、重力に対してバランスを取ることができなくなります、横たわった肉体はどんどん変化していきます。この変化を観察する修行が「不浄の観察」です。死後の肉体の変化をありのままに観察することで、自分だと思っている肉体の現実に気づき、執着をなくすことを教えています。

SN1-11-203

Khādanti naṃ suvānā ca, 
餌にする それを 犬が と
siṅgālā vakā kimī;
ジャッカルが 狼が ウジ虫が  
Kākā gijjhā ca khādanti, 
カラスが 鷲が 餌にする
ye caññe santi pāṇino.
彼らは また他の 存在 生物

犬やジャッカルや狼が
ウジ虫がそれを餌にする
カラスやハゲタカや
他の生き物がついばむ

解説

放置された死体が腐敗し、野生動物やウジ虫のエサになって朽ち果て、骨と化してゆく変貌のプロセスの一部始終を「ありのままに」観察します。

SN1-11-204

Sutvāna buddhavacanaṃ, 
聞いて 覚者の教えを
bhikkhu paññāṇavā idha;
修行者は 智慧ある ここに
So kho naṃ parijānāti, 
彼は 確かに それを  理解する
yathābhūtañhi passati.
ありのままに・なぜなら 見る

ブッダの教えを聞き
智慧のある修行者は
ありのままに肉体を
観察することで
これを完全に理解する。

解説

この不浄の観察については、マハーサティパッターナ・スッタでは「9段階の死体の観察」としてさらに詳細な記述があります。

SN1-11-205

Yathā idaṃ tathā etaṃ, 
ように このものは そのため これは  
yathā etaṃ tathā idaṃ;
ように これは そのため このものは
Ajjhattañca bahiddhā ca, 
内から 外から と
kāye chandaṃ virājaye.
身体に対する 欲 離れなさい 

あの死体がそうであるように
この肉体もそうなのです。
他者にも自分にも
外見にも内面にも
身体に対する
こだわりを捨てなさい。

解説

Ajjhattañca bahiddhā ca:「内と外と」という意味ですが、ここには2つの内と外の解釈ができます。1つは「肉体の外面から内面から」つまり、「自分の外見や自分の心(考え・主義主張)に対する欲」です。もう1つは「外部の肉体と内部の肉体」=「他者と自分に対する欲」という意味です。

SN1-11-206

Chandarāgaviratto so, 
欲・執着・離れ その
bhikkhu paññāṇavā idha;
修行者は 智慧のある ここに
Ajjhagā amataṃ santiṃ, 
到達する 不死に 静寂に
nibbānaṃ padamaccutaṃ.
涅槃の 境地・不変の

欲と執着から離れた
智慧のある修行者は
死ぬことのない静寂で
不変の境地である
涅槃に到達する。

解説

SN1-11-207

Dvipādakoyaṃ asuci, 
2つ・足・これを 不浄の
duggandho parihārati;
悪臭を放つ 注目
Nānākuṇapaparipūro, 
様々な・死骸・完成
vissavanto tato tato.
滲み出る それより それより 

この悪臭を放つ
不潔な二本足を
人は大切にしているのだ。
様々な廃物で埋め尽くされ
あちこちから垂れ流しているのに。

解説

人は自分の身体にこだわり、自分の命が一番大切だと信じています。しかし、冷静に観察してみれば、汚物にまみれた臭い二本足に過ぎないのです。そのような身体を大事に思って、自分を否定するもの、攻撃したと感じさせるもの、あるいはその逆に、自分を肯定するもの、愛していると感じさせるものにこだわり、そのこだわりに束縛されることになるのです。

SN1-11-208

Etādisena kāyena, 
このような 身体によって
yo maññe uṇṇametave;
彼は 思う 偉い 
Paraṃ vā avajāneyya, 
他人を あるいは 軽視する
kimaññatra adassanāti.
何だろう・他の ない・見る者 と

こんな身体なのに
自分を偉いと思ったり
他人を見下したり
盲目以外の何者でもない。

解説

このスッタ集のテーマである「勝利」は、自分の身体への執着をなくすことで「大切な自分」に打ち勝つことでした。

Vijayasuttaṃ ekādasamaṃ niṭṭhitaṃ.
勝利のスッタ集 11番目 終わり

11. 勝利のスッタ集 終わり