7. Brāhmaṇadhammikasuttaṃ バラモンの教えのスッタ集 ③
ここからは腐敗し、堕落していくバラモンの様子が語られます。
SN-2-7-301
‘‘Tesaṃ āsi vipallāso, 彼らに あった 反転 disvāna aṇuto aṇuṃ; 見て 微細な 微細の Rājino ca viyākāraṃ, 王 と 華麗さ nāriyo samalaṅkatā. 婦人たち よく・飾られた
微々たるもの
些細なものである
王の栄華や
着飾った婦人たちを見て
彼らに変化が起こった。
解説
バラモンが得ていた智慧や徳に比べれば、取るに足りない王族の華やかな暮らしを見て、彼らの心に何かが起こったのです。
SN-2-7-302
‘‘Rathe cājaññasaṃyutte, 馬車 そして・駿馬・つながれた sukate cittasibbane; よく・作られた 彩色・刺繍 Nivesane nivese ca, 住居 住居 と vibhatte bhāgaso mite. 区分する 部分 測る
駿馬をつないだ馬車や
美しく施された刺繍。
区画に分けられた宮殿やお屋敷。
解説
いつの時代も、立派な車、豪華な衣装、立派な住居が、人の心の欲をかき立てたことが確認できるスッタです。これらを見て、バラモンの心にいったい何が芽生えたのでしょうか。
SN-2-7-303
‘‘Gomaṇḍalaparibyūḷhaṃ, 牛・輪・囲まれ nārīvaragaṇāyutaṃ; 婦人・高貴な・群れ・従えて Uḷāraṃ mānusaṃ bhogaṃ, 豊かな 人間の 富 abhijjhāyiṃsu brāhmaṇā. 切望・利益 バラモンたちは
牛とその産物に囲まれ
貴婦人たちを従える
豊かな人間の富を見て
バラモンたちは
欲しいと切望した。
解説
苦しみの原因である「欲」が心に生じたのです。
王族の華やかで、女性を従えて快楽を享受する豊かな暮らしぶりを見てバラモンは、質素な暮らしや苦行、禁欲生活と比べて、自分も富が欲しい、楽しみたいと思うようになったのです。
その気持ち、わからなくないですね。
SN-2-7-304
‘‘Te tattha mante ganthetvā, 彼の そこで 真言 編んで okkākaṃ tadupāgamuṃ; オッカーカ王 それに・近く Pahūtadhanadhaññosi, 多くの・財産・幸運 yajassu bahu te vittaṃ; 犠牲すべき 多くの あなたは 富を Yajassu bahu te dhanaṃ. 犠牲すべき 多くの あなたは 財産を
そこで彼らはマントラを作り
オッカーカ王に近づいて言った。
あなたはたくさんの財宝があり豊かだ。
あなたはたくさんの富を
生贄に捧げよ。
あなたはたくさんの財産を
生贄に捧げよ。
解説
オッカーカ王とは、ゴータマ・ブッダの家系である釈迦族の祖先である、日種族の祖とされています。
バラモンは自分たちに都合よく、ヴェーダの真言であるマントラを新たに編み出しました。驚愕の事態ですが、これは私たちの社会でもよくあることです。何か問題が起きると、自分たちに都合よく物事を進めるために御触れを作るのです。そもそも私たちの見解(diṭṭhi)は、曖昧なものなので、各人の解釈次第で、全く逆にもなり得るのです。強く言った者勝ちの世界です。
SN-2-7-305
‘‘Tato ca rājā saññatto, このように そして 王は 説得され brāhmaṇehi rathesabho; バラモンたち・然らば 車の・主は Assamedhaṃ purisamedhaṃ, 馬の・生贄 人間の・生贄 sammāpāsaṃ vājapeyyaṃ niraggaḷaṃ; 投擲祭 ソーマ・飲むものを ない・制限 Ete yāge yajitvāna, これらは 犠牲 供養して brāhmaṇānamadā dhanaṃ. バラモンたちに・与えた 財産を
こうして馬車の主である王は
バラモンたちに説得された。
馬や人間が生贄として
ソーマ酒を飲まされ
祭祀で際限なく火に投じられた。
バラモンたちに財産を与え
これらの生贄として捧げられた。
解説
このスッタに関しては、他の翻訳と随分違うかもしれません。どちらが正しいということではなく、このサイトでは、素直にこのように読み取りましたが、「王がバラモンに説得されて、人や馬を生贄とした」という本筋では相違はありません。
投擲(とうてき)とは、手で物を遠くに投げることです。犠牲となる生贄を火に投じることだと解釈しました。
vājapeyyaṃ:ヴェーダの祭祀において、元々はアーリア人の祭祀の捧げものとしてソーマ酒(vāja)が投じられたことから、ソーマ酒を飲まされた生き物=捧げものを指していると解釈しました。
祭式至上主義の始まりです。神々よりも祭式のほうが強力と見なされ、男性バラモン司祭によって正式に行われる祭式は、神々を超えて宇宙も支配すると考えられるようになりました。神々は祭場に呼び出され、そこで唱えられるマントラの呪力によって支配されます。神々に恩恵を求めるのではなく、神々を祭式によって操作することで、願望が実現されるとしたのです。
水平方向だけの侵攻では飽き足らず、垂直方向へも支配しようとしたのでしょうか?
SN-2-7-306
‘‘Gāvo sayanañca vatthañca, 牛 寝具・と 衣服・と nāriyo samalaṅkatā; 婦人たち よく・飾られた Rathe cājaññasaṃyutte, 馬車 そして・駿馬・つながれた sukate cittasibbane. よく・作られた 彩色・刺繍
牛、寝床、衣服に
着飾った婦人たち、
駿馬がつながれた馬車と
美しく施された刺繍、
解説
次のスッタに続きます。
SN-2-7-307
‘‘Nivesanāni rammāni, 住居 美しい suvibhattāni bhāgaso; よく区分整理された 部分的に Nānādhaññassa pūretvā, 種々の・穀物によって 満たされた brāhmaṇānamadā dhanaṃ. バラモンたちに・与えた 財産を
よく整備された美しい家は
さまざまな穀物で満たされて
バラモンに財産として与えられた。
解説
バラモンたちは長い間、牛を連れることもなく、寝具は用いずに、森の地面や床に敷物を敷いて寝ていました。所有物は、3枚の衣と食器である1つの鉢だけです。出家したのですから家はもちろんなく、毎日の食事は托鉢で得た食べ物で、穀物を蓄えることはありませんでした。そんなことをしなくても、彼らは人々から生きるために十分以上のお布施を得ていたのです。
禁欲生活に着飾った婦人は目の毒であり、馬車も刺繍も無用の長物のはずです。
SN-2-7-308
‘‘Te ca tattha dhanaṃ laddhā, 彼らは そして そこで 財産 得た sannidhiṃ samarocayuṃ; 蓄積に 喜びを・見出した Tesaṃ icchāvatiṇṇānaṃ, 彼らの 欲に・陥る bhiyyo taṇhā pavaḍḍhatha; より多い 渇望が 増大する Te tattha mante ganthetvā, 彼らは そこで 真言を 編んで okkākaṃ punamupāgamuṃ. オッカーカ王に 再び・近づいた
こうして財産を得た彼らは
それを蓄めることに喜びを見出した。
欲に溺れ、ますます渇望が増えた。
彼らはマントラを作成して
オッカーカ王に再び近づいた。
解説
完全なる転落です。いったいどんな新マントラが作られたのでしょう?