第4章 8つのこと:14. 速やかにやるべきこと 934〜940

14. Tuvaṭakasuttaṃ 速やかにやるべきこと ③

SN-4-14-934

‘‘Nindāya nappavedheyya, 
非難によって 動揺しないように
na uṇṇameyya pasaṃsito bhikkhu;
ない 高揚 褒められても 出家者は
Lobhaṃ saha macchariyena, 
貪欲を 共に 物惜しみを
kodhaṃ pesuṇiyañca panudeyya.
怒りを 中傷を・と 破棄するように

出家者は
責められても動揺せず
褒められても自惚れず。
欲と物惜しみを
怒りと悪口を
破棄するように。

解説

何か嫌なことがあるたびにイライラし、何か不安なことがあるたびにビクビクし、何か良いことがあるたびにニヤニヤするのが人の常です。人の本能は変化が嫌いで、現状維持が大好きだからです。出家者はこれを意識的にコントロールすることで、本能を超えて精神を高めます。

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‘‘Kayavikkaye na tiṭṭheyya, 
売買に ない 立つ
upavādaṃ bhikkhu na kareyya kuhiñci;
非難する 出家者は ない 行いは いかなる場合も
Gāme ca nābhisajjeyya, 
村で また ない・親しくする
lābhakamyā janaṃ na lapayeyya.
利潤追求 人々に ない 語っては

出家者は商売に従事せず
いかなる場合でも他者を責めず
また、村では人付き合いはせず
利益を求めないように。

解説

bhikkhu(ビク)出家者は、元々は「乞食食べ物を乞う」という意味です。他者からの施しで生きる道を選んだ人です。与えられたものだけで生きるのです。

施しだけで生きる出家者の仕事は、心を浄化すること、慈愛の心で周囲の空間を満たすこと、学んだ教えを他の人々に伝えることです。これらは当然、無償の奉仕活動です。つまりすべてが「与えること」です。「与えれば与えるだけ、与えられる」ということです。

心の浄化は、他者のためではなく自分のためでは?」と思うかもしれませんが、世界が平和で、すべての生き物が幸せであるためには、小さな争いから大きな戦争まで、少しでも多くの対立をなくさなければなりません。

そのためには、一人一人の心が穏やかになる以外に、争いを避ける方法がないのです。世界は個々の生命体の集合だからです。あらゆる生き物は常に変化していますが、他の生き物を変えることはできないのです。変えられるのは自分だけです。

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‘‘Na ca katthitā siyā bhikkhu, 
ない また 自慢げで ある 出家者は
na ca vācaṃ payuttaṃ bhāseyya;
ない また 言葉を 計られた 語る
Pāgabbhiyaṃ na sikkheyya, 
傲慢を ない 学ぶ
kathaṃ viggāhikaṃ na kathayeyya.
いかに 論争の ない 語る

出家者は自慢したり
ほのめかすような言葉を
語らないように。
学んだからといって
調子に乗らず
喧嘩腰で話したりしないように。

解説

理解が深まれば深まるほど、それを他者に伝えた時に相手の反応も大きくなります。自分が外から学んだ教えを伝えただけなのに、相手が有難がって手を合わせたりするようになると、なんだか自分が偉くなったような気になるものです。ここで「あ、いかん、これはおごる心だ。気をつけよう」と気づけたらいいのですが、いつの間にかその気になって、調子に乗ってしまうのも人の常です。

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‘‘Mosavajje na nīyetha, 
偽りに ない 引導される
sampajāno saṭhāni na kayirā;
意識的に ずるいことを ない 行う
Atha jīvitena paññāya, 
また 生活において 智慧において
sīlabbatena nāññamatimaññe.
戒・掟において ない・他者を軽蔑する

間違った見方、考え方に
偏ることなく
ずるいことをしないように
気をつけなさい。
生き方、智慧、戒律と掟に関して
他者を軽んじないように。

解説

ブッダは35歳で涅槃に至った際に、気づいた考えを「4つの聖なる真理」としてまとめました。その4つは、①苦しみとは何か ②苦しみの原因 ③苦しみの止め方 ④苦しみを止めるために助けとなる8つの正しい道、です。この4つ目「Maggasacca道の真理= ariyo aṭṭhaṅgiko magga8つの正しい道)」の要素が、このスッタには入っています。

8つの正しい道とは、1. 正しい見方2. 正しい考え方、3. 正しい言葉、4. 正しい行為、5. 正しい生き方、6. 正しい努力、7. 正しい気づき、8.正しい集中・精神統一です。詳細はこちら

このスッタによって、第4章のテーマがなぜ「8つのこと」なのかが、明確になったのではないでしょうか?

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‘‘Sutvā rusito bahuṃ vācaṃ, 
聞いて 不機嫌になる 多くの 言葉を
samaṇānaṃ vā puthujanānaṃ; 
僧侶たちの あるいは 凡夫たちの
Pharusena ne na paṭivajjā, 
粗暴な 彼らは ない 対応する
na hi santo paṭisenikaronti.
ない なぜなら 落ち着いた人は 敵対する

おしゃべりな僧侶や俗人から
いろいろな話を聞いても
苛立って強い口調で
言い返さないように。
落ち着いた人は
対立しないのだから。

解説

このスッタでは8つの正しい道の「3. 正しい言葉」について述べられています。この道だけわざわざ1つのスッタにしているのですから、やはり「口は災いの元」なのです。

世の中には誹謗中傷があふれていますが、たとえ根拠なく中傷されても、いちいち反論したりせず、穏やかに対応します。怒りではなく、思いやりの心をもって対応するのが理想ですが、できそうにない場合には、ダンマパダの10章134にもあるように「黙っている」のがいいそうです。無視するのではなく「黙ってなにもしない」ことで、原因となる行為を作らないので、その結果を受け取ることもないのです。

samaṇa(サマナ)僧侶」、「bhikkhu(ビク)出家者」としました。

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‘‘Etañca dhammamaññāya, 
この・そして ダンマを・よく知って
vicinaṃ bhikkhu sadā sato sikkhe;
調べて 出家者は 常に 気づいて 学びなさい
Santīti nibbutiṃ ñatvā, 
寂静・と 平和を 見つけて
sāsane gotamassa na pamajjeyya.
教えにおいて ゴータマの ない 怠惰では

この真理をよく理解し
出家者は常に気づきをもって
観察して体得しなさい。
平和であることが幸せだと考え
ゴータマの教えにおいて
実践を怠らないように。

解説

このスッタでは「6. 正しい努力 7. 正しい気づき 8. 正しい集中・精神統一」について語られています。この3つは1〜5と違い、心を統一することでコントロールするための訓練の道になります。真理は、自分で体験しなければ会得できません。火に実際に触れてみないと、火傷が何かわからないのと同じです。すべては感覚と結びついているからです。

このスッタには「ゴータマの教え」という言葉が出てきますが、ブッダは「私の教え」などとは考えもしないと思います。従って、ブッダ自身の言葉ではなく、ブッダを「ゴータマ」呼ばわりできる存在(デーヴァ界の神々ヤッカなど)が、聴衆の出家者たちに向けて宣言しているのではないでしょうか? 

ブッダの教えの通りに真理を実体験するためには、感覚が必要です。それができるのは、感覚を体験できる「欲界の存在」だけです。そこから推測すると、このスッタ集はデーヴァの神々あるいはヤッカたちが、ブッダに質問した答えのまとめだったのではないでしょうか?

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‘‘Abhibhū hi so anabhibhūto, 
勝利者 実に 彼は ない・征服され
sakkhidhammamanītihamadassī;
自ら証した・ダンマを・伝聞でない・見た
Tasmā hi tassa bhagavato sāsane, 
それ故に 実に 彼の 世尊の 教えにおいて
appamatto sadā namassamanusikkhe’’ti.
ない・怠る 常に 礼拝して・従い・学べ と

彼はまさに煩悩を克服した
勝利者であり、
人から聞いたのではなく
自ら体験して真理を見たのだ。
故に、世尊の教えにおいて
怠ることなく、常に帰依し
従って修行せよ、と。

解説

ここでは「ゴータマ」ではなく「 bhagavant世尊」とブッダを称えているので、このスッタは、のちの編者によるまとめの言葉ではないかと思います。

namas(ナマス)は「礼拝・お辞儀・挨拶」を意味する言葉です。南無阿弥陀仏の「南無」です。ここでは儀式としての礼拝ではなく、「ブッダの教えに帰依する」=「ブッダの教えを拠り所とする」ということだと捉えました。「何ものにも依ってはいけない」と、ブッダが何度も口を酸っぱくして言っているのですから、たとえブッダの教えであっても拠り所としてはいけない気もしますが、まあ、とりあえず、ここにはそのように書かれています。

Tuvaṭakasuttaṃ cuddasamaṃ niṭṭhitaṃ.
迅速の・スッタ集 14番目 終わり

14. 速やかにやるべきことのスッタ集 終わり